春を待つ思いをジュエリーにこめて

先日、ひさびさの暖かさに誘われて散歩に出かけました。自宅の近所に、江戸時代に梅林があって、梅見で有名だったという一帯があります。現在では開発が進んで、梅林の面影は妙法寺というお寺の境内に残すのみですが、それでも住宅地のあちこちに梅の木があります。(余談ですが、明治時代に小田原に移植された梅が、見た目の美しさと味の良さを備える「幻の杉田梅」として、現在も人気だそうです)
今まさに満開の梅の花を満喫しながら歩いていたところ、「ん?もしやあれは梅じゃなくて桜?」という木を見つけました。わずかながらほころび始めた花と、ふくらんだ蕾、、、それを見ていたら、「春よこい!早くこい!」との思いがふつふつとこみ上げてきました。長らく生きてきましたがw、こんなに春を待ち焦がれる気持ちになったのは初めてです。
そのとき、ふと心をよぎったことがありました。
紀元前から作られていたという花モチーフのリング、その始まりはもしかすると、作り手の春を待つ気持ちからだったのでは?と。いにしえの人々も、冬の厳しい寒さに耐えて、春を夢みたのではないでしょうか。花を模ったリングに、「春よこい!」と祈る姿が心に浮かびました。

上記の「紀元前に作られた花モチーフのリング」とは、国立西洋美術館で開催された「指輪」展で見かけた、下の画像をイメージしています。紀元前6世紀にエトルリアで制作された、ゴールドのリング。エジプトやギリシアなど、古代文明にまつわるジュエリーによくみられる、ロゼット紋(薔薇飾り)をあしらったデザインです。リングの基本ともいうべきシンプルな形から、そこに込められた思いが伝わってくるように感じます。

「指輪」展から、もう一点。春を呼ぶ力がありそうな、1870年頃に制作された「パンジーまたは勿忘草」のリングです。ルビーとダイヤモンドを使ったヴィクトリアン調のデザインが、浮き立つような春の気分を思わせます。


以上2点の画像は「RINGS」展カタログより

現代のピースで花モチーフといったら、真っ先に思い浮かぶのは、VCAの「フリヴォル」でしょうか。
ゴールド素材の立体的なフォルムに、花の生命力と明日への希望があふれています。


(C)Van Cleef and Arpels

花モチーフのジュエリーの始まりに思いを巡らせたことで、ようやくわかったことがあります。
これまで私は、花モチーフについていろいろ語ってきました。時には「春を待つ」と表現したこともありましたが、それは空想や言葉の上だけの絵空事でした。(砂上の楼閣という言葉が脳裏をよぎります(^_^;)
いまコロナ禍の最中にあって、心の底から春の到来を願ったことで、「実感を伴う」言葉の大切さを、身をもって理解できたように思います。自分がいかに表面的なことだけにとらわれていたかを、痛感しました、、、もっと謙虚に、根源的な部分にまで考えを深めるようにしなくては!(今さら遅すぎる?いや、一生気づかないよりはマシなはずw)

この一年、出口の見えない閉塞感に押しつぶされそうになってきました。気持ちも暗く沈みがちです。こんな時こそ「一日も早く明るい春が来ますように!」との願いをジュエリーにこめて、春を呼びましょう!

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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