モランディの「終わりなき変奏」

ジョルジョ・モランディの作品ときちんと向き合ったのは、モランディ美術館がまだボローニャ市庁舎の中にあったころでした。その当時はあまり彼についての知識がなく、なんとなく似たような絵を描く人というイメージをもっていました。しかし美術館を訪れて初めて、「ほんの少しだけ違う、似たような絵」こそが、モランディの終生のテーマだったことに気づかされました。

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彼は生まれ故郷のボローニャからほとんど外に出ないで、ひたすら描き続けた画家です。作品の題材は、身の回りにあるものーー様々なフォルムをした、お気に入りの器や瓶、水差し、じょうご、ブリキ缶、古い計器など。それらを密集させ、ほんの少しだけ配置や角度、あるいは光のあて方を変えながら、一枚ずつ描いているのです。

モランディの製作過程はいっぷう変わっていて、絵を描く準備をする前に、頭の中にまだ見ぬ絵を思い描きながら、カーテンを開けたり閉めたりして、光の具合をシュミレーション。納得のいくまでそれを繰り返したのちに、ようやく用意にとりかかった、とのエピソードがあります。またアトリエの中は誰にも触らせず、埃だらけのまま。その埃が彼の絵の微妙なニュアンスを生み出していたそうです。

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静物画で知られるモランディですが、ボローニャの街を描いた風景画も素敵です。また家族や友人のために描いていたという花の絵も。花弁の上につもった埃が、絶妙の陰影をもたらしています。風景と花も、同じ主題をほんの少しずつ変化させながら描いている点で、器の絵と共通しています。

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先日まで東京ステーションギャラリーで開催されていたモランディの展覧会「終わりなき変奏」を訪れて、ひさしぶりに彼の絵と対峙しました。そこで気づいたことがあります。この「変奏=ヴァリエーション」という対象との向き合いかたは、ジュエリーにも通じるのではないでしょうか。

モランディは1937年に、自身のクリエイションについてこう語っています。「重要なのはものの深奥に、本質に触れることです」。すべての創作に共通する重要なアプローチは、加えるのではなく、引くこと、とモランディが示唆してくれたように感じました。その結果生まれたものだけが、本質に迫るスタイルを持つことができるように思います。

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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