メディチ家の女性たちとジュエリー

7月5日まで東京都庭園美術館で開催中の、「メディチ家の至宝」展に行きました。メディチ家の栄華を伝えるフィレンツェにはこれまで数回しか行ったことがありませんが、大好きな街のひとつです。 なかでも印象的だったのが、服飾研究家の深井晃子先生とご一緒した企画で、名画とファッションをテーマにフィレンツェを訪ねた時でした。第2代フィレンツェ公コジモ1世の妻、エレオノーラの肖像画を撮影しようと、早朝のウフィツィ美術館で実物と対面したのですが、宮廷画家ブロンズィーノの精緻な描写に息をのみました。金糸を織り込んだシルクのドレスと、みごとな天然真珠のジュエリー、金工家チェッリーニによるタッセルベルト、、、今にも衣ずれの音が聞こえてきそうでした。

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エレオノーラは夫とともに芸術を庇護し、絹織物や金工細工などの産業をフィレンツェで発展させたと言われています。肖像画に描かれた絹織物の流れをくむ手織りは、今も残っています。また金工テクニックは、その後さまざまな石を用いたフィレンツェ風モザイク(象嵌)を生み出し、現在に至る工芸都市としての基礎を築きました。彼女の墓で見つかったというリングは、ゴールドの三日月形の台にルビーとエメラルドがはめ込まれ、握手する2人の手で閉じられています。こうした「信頼の手」のついたリングは、古代ローマ時代から愛と結婚の象徴とされていたそうです。

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展覧会のメインビジュアルの肖像画に描かれた少女マリアは、コジモ1世とエレオノーラの長女。この絵もブロンズィーノによって、ベルベットやオーガンジーのプリーツや金糸の刺繍のテクスチャー、さらにはパリュール(宝飾品のセット)を彩る真珠の優しい輝きと、金細工の繊細なテクニックまでが完璧に表現されています。気品に溢れ聡明とうたわれたマリアですが、マラリアのため17才で急逝し、父のコジモ1世を嘆かせたそうです。
このように「メディチ家の至宝」展では、宝飾品で正装した女性たちの肖像画をいくつも見ることができます。フランス国王に嫁いで王妃となった、二人の女性の肖像画も。波乱に満ちた生涯を送った彼女たちを、いちばん身近で見ていたのはジュエリーだったかもしれません。時の流れとともに宝飾品やドレスは解体され、散逸してしまいましたが、驚くほど正確な描写の肖像画が、在りし日の美を伝えています。豪華な衣裳に身を包んだ彼女たちは、どんな思いで画家のキャンバスの前に立っていたのでしょうか。ルネサンス当時の美意識では高貴さの表現だったという、無表情にも思える顔からは、心の内を推し量ることができないのが残念です。なおこの展覧会には、入場料のドレスコード割引(¥100)があります。真珠(人造物もOK)をつけて、メディチ家の女性たちに会いにいきましょう。

成瀬浩子

 

WRITER : Hiroko Naruse

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