2018.04.01 jewerly
花モチーフだって、可愛いだけじゃない
先日ひさしぶりに面白い写真を見つけました。それはT JAPANの最新号(3/25発刊の15号)、リングサイドの設定で撮影されたカバー。“AND THIS CORNER,JUDY CHICAGO”とのアナウンスの見出しとともに、ロープぎわのコーチのポジションに、アーティストのジュディ・シカゴが登場しているのです。表紙のビハインドストーリーによると、この写真は若き日の彼女が、当時のアメリカで女性に禁止されていたボクシングのいでたちで被写体となった写真のパロディなのだそう。その写真によって、彼女は自分を取り巻く男性中心の社会からの抑圧と闘うことを宣言したそうです。
T Magazineがこうした写真を撮影したのは、現在女性たちが様々なハラスメントに対して強い抗議の声を上げ、それが世界的に大きなうねりになっていることと、無縁ではないと思います。ジュディ・シカゴは、1970年代から旧体制に対峙してきた大先輩なのですから。今回の出来事では、日本と比べてはるかに女性の権利が守られているはずと確信していた欧米、特にアメリカでさえ、まだまだ日常的に女性が闘わねばならないことがたくさんあるのだと驚きました。現在のうねりをさらに強力にするためにも、ぜひジュディにコーチしてもらいたい、と思います。
さて、話題をジュエリーに転じましょう。ひと昔前(ジュディ・シカゴが若かったころ)には、ジュエリーは男性から贈られるもの、という考え方が一般的だったと思います。しかし60〜70年代になって、古い価値観が揺らぎ始めるのと同時に、自分の力でジュエリーを手に入れる女性が現れました。しかし残念なことにジュエリーを作る側の宝飾界では、一部の例外を除いては、従事者のほとんどが男性だったようです。
21世紀の今になってようやく、女性に寄り添う、女性目線で作られたピースが増えてきたように感じます。これはとても嬉しいこと!女性好みの定番(?)花モチーフのジュエリーにも、少しずつ変化が起きています。
その代表といえるのが、シャネルのカメリアモチーフのジュエリーです。マドモアゼル シャネルが愛したカメリアの花は、もともとバラやユリと比べると異端の存在。そっけないほどシンプルで、幾何学的なモダンさが魅力です。こうした元来のマイウェイ路線に加えて、新作のためのムービーにちょっとした衝撃が。シャネルスーツとジュエリーを身につけたまま、庭園の垣根を刈り続ける女性の映像に続いて、「NOT A FLOWER」とのテロップが入るのです。
一瞬、「あれ?カメリアって花だよね?」とアセる私。そして次の瞬間、「そっか、カメリアの花はシンボルであって単なる花ではない、って意味なのね」と理解しましたが、自ら「花じゃない」と言い切る姿勢にショックを受けました。冷静に考えると、これはシャネル流の差別化作戦なのかしらと思います。クラシックな花モチーフは巷に数え切れないほどあって、しかも元々それらとは袂を分かっているカメリアモチーフのジュエリーだから、ここで他との違いを明確にしよう、という狙いがあるのでは?もし仮に、「花だからとか可愛いから、という理由だけなら、このジュエリーをつけてもらわなくてもかまわない」という意思表明だとしたら、それはそれで潔くてカッコいいと思いますけれど。
もうひとつ、ブシュロン にも新しい流れを感じさせるコレクションが。花モチーフではないのですが、野生のアイビーにインスパイアされた「リエール ドゥ パリ」が気になっています。もともとはハイジュエリー コレクションだったのですが、この春にモダンなデザインの新作が登場。パリの街中で力強く生き抜く野生のアイビーに、「定められた運命よりも自ら切り拓くチャンスを選ぶ」というメゾンの姿勢が発揮されているように思います。
成瀬浩子
WRITER : Hiroko Naruse