ニキ・ド・サンファルふたたび

このブログの第1回にとりあげたアーティスト、ニキ・ド・サンファル。彼女の作品にインスパイアされた服やアクセサリーが、昨秋2018SSのディオールのランウェイに登場しました。初めて聞いた時、「どうしてニキとディオール?」との疑問がわいたのですが、きっかけはアーカイヴで発見されたニキの写真(ラクダに乗った彼女のポートレート)だと聞いて驚きました。しかも、ニキは当時のデザイナー、マルク・ボアンと親交があったという事実に、2度びっくり!というのは、ボアンはメゾンの歴史の中で、最も「良識ある」デザイナーとして知られた人で、自由闊達なニキとは正反対だからです。

それではニキとボアンは、どんな付き合いだったのでしょう。ふたりの出会いは、1965年。ニキが初めてパリで“ナナ”のオブジェを発表した時に、展覧会の主催者を通じて知り合ったそうで、アートコレクターだったボアンが“ナナ”を数体購入。いっぽうニキは、自身の香水を発表する際のドレスをディオールに依頼し、フィッティングの写真も残っています。その服を見ると、確かに香水のボトルと同様のゴールドのドレス、そしてヘッドドレスには2匹のヘビが絡みあっています。通常のボアンのデザインからしたら、なんてアヴァンギャルドなんでしょう!このことから、ニキはボアンの想像力を刺激する大切な存在だった、と確信しました。

さて、今回のコレクションの冒頭で「なぜ偉大な女性アーティストが生まれなかったのか?」(70年代の女性美術家、リンダ・ノックリンのエッセイのタイトル)とのメッセージが提示されました。エッセイが書かれた70年代、フェミニストとしても知られるノックリンの見解は「芸術もまた、男性目線で語られている」でした。しかしそれから約半世紀が経過した今、マリア・グラツィア・キウリは「ニキ・ド・サンファルのクリエイションを、現代の私たち女性が受け継いでいるわ!」と答えたかったのではないでしょうか。
服は、60〜70年代のボアンの服に着想を得た、素材やシルエットがメイン。ボンシックな服と、ニキの強烈なキャラクターの組合せには、かなりのミスマッチ感が漂ってます。しかしほとんどの服が原型シルエットのため、キャラクターを職人の技を駆使した刺繍やプリント、アップリケなどに表現して、服にのせやすいという利点が。さすがマリア・グラツィア・キウリ、鮮やかなお手並みです。彼女のデザイン手法は、ブランドのヘリテージを独自の視点で再解釈すること。たしかにナナやモンスターも、ポジティブのロゴも、服と美しく調和しています。ただニキファンの私としては、ちょっとお行儀が良すぎるようにも感じます。ニキの作品に込められた野生的なパワー、目もくらむばかりの色彩の洪水から立ち上る官能性、そして社会規範に挑み続けた反骨精神。こうした彼女のクリエイションの本質が伝わらないかぎり、キャラクターはただ表面的に「カワイイ」と捉えられ、消費される存在になってしまうのでは?(もちろん顧客の側にも責任があると思いますけれど)これが杞憂に終わればいいのですが。

ニキは60年代のインタビューで、「ファッションは、自分自身をひとつのオブジェにしてみたい、という願望の表れよ」と語っています。「服や帽子は結局、私自身とは何の関係もないのだから」と。彼女の感覚は、現代のコスプレに近いのかもしれません。たしかにプレタポルテ以前のファッションは、ニキとは相入れない権威主義的なものだったと思います。しかしその後の変革を、彼女はどんな思いで見ていたのか、聞いてみたかった!そして才能ある女性デザイナーが活躍する現代だからこそ、マリア・グラツィア・キウイとニキのコラボレーションにも、期待が大きく膨らむのです。


最後になりましたが、ディオールの服とチョーカーやロングネックレスとの組合せがカッコいいです。絶妙のバランスで考えぬかれたコーディネートに脱帽!です。

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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