2016.08.11 jewerly
地球からの贈りもの
宝石のルーツともいうべき、鉱物。
私がこの鉱物に本格的に興味を持ったのは、ヴァン クリーフ&アーペルが主催するジュエリーの学校レコールが東京で開講した際に、「原石の世界」という授業を受けてからです。地球の形成に深く関わって誕生する過程を学び、実際の見本を手にとって確認することで、グンと身近に感じるようになりました。授業で取り上げられた緑色のマラカイトが、その年のアルハンブラ コレクションの新作に使われたことも、興味に拍車をかけました。新しい美を創り出すために、ジュエラーもさまざまな素材に挑戦しているんですね。
現在地球上に存在する鉱物は、約5000種類だそうです。昔から新しい鉱物が発見されるたびに、人々はワクワクしながら見つめてきたのでしょう。そんな歴史の一端にふれることができるのが、「美しいアンティーク鉱物画の本」です。19世紀初頭から1930年代までに欧米で描かれた手描きの鉱物画の秀作を集めた本なのですが、ひとつひとつの色のきれいなことといったら!そのわけは、現在の主流のオフセット印刷が開発される前に、クロモリトグラフ(石版による多色印刷)によって印刷されているからだといいます。
たとえば、アメリカの有名な鉱物学者で、ティファニーに宝石の新しい価値をもたらしたことで知られるクンツ博士による「北米の宝石」には、トップ画像の繊細な口絵が入っています。それ以外の図版も目をみはる美しさです。
緑色の鉱物画を集めたページを見て、ふとボッテガ・ヴェネタのファッションジュエリーのことを思い出しました。このブレスレットには、今季のテーマカラーのグリーンを表現すべく、ヒスイとマラカイトとフローライトの3種の石(鉱物)が使われています。厚みのある石の周りを囲むシルバーには、樹皮をイメージした模様が施され、24金のプレートを施したシルバーのアームは、部分的に表面をそぎ落として、まるで経年変化のように仕上げられています。地球からの贈りものともいうべき鉱物には、石をピカピカに輝かせるためのカッティングや研磨よりも、長年使い込んでなじんだ雰囲気のほうが似合うのかもしれない、という思いが心をよぎりました。
成瀬浩子
WRITER : Hiroko Naruse