アートバーゼル2 人々のスモールトークがアート界の動向を決める

世界最大のアートの見本市、アートバーゼルを訪れる人にとって、大事なのはアート作品の購入だけではない。毎晩必ずどこかで行われるヴェルニサージュ(オープニング)やパーティーに行き、アーティストやアート関係者、愛好家たちと交流すること、つまりは社交がもうひとつの、そしておそらく最大の目的だ。パーティーの主催者はさまざま。バーゼル市内にはその質の高さで世界的に知られる美術館がいくつもあるが、それぞれがこの時期に合わせ年間で最も重要なエキシビションを開催し、そのお披露目かたがたパーティーを催すし、企業や個人主催のものも多い。誰でもウェルカムのパーティーでは学生や若い人たちも大いに(ただ酒を?)楽しむし、招待客限定ならもっとプライベートな会話が楽しめる。中には地球の裏側に住む友人と年に1度、アートバーゼルで顔を合わせるのが恒例になっている人たちも少なくない。

7c510995-9bf3-4602-8889-ad679152784f

国境を越えてドイツ側にある家具会社ヴィトラ社のキャンパスでも毎年アートバーゼル期間中に大々的なパーティーを開催。今年は冒頭写真の建物、家具コレクションの常設展示用に新設されたSchaudepotをお披露目。設計はヘルツォーク&ド・ムーロン。

2c312ef4-7a28-455f-a4b4-e26d84aaa226

さるお屋敷で行われたガーデンパーティー。名だたるアートコレクターや著名人らの姿も。photo: Arno Dietsche

トピックとなるのはもちろんアートのこと(もちろん個人的なゴシップも話題に上るでしょうが)。今年注目の作家は誰か、次はなにがブームになりそうか。ウォーホルやダミアン・ハーストらアート界以外でも知られるような大スター不在の今、アート界は常に新鮮な“次”を探し求めている。だからアートバーゼルで人々の話題に上ることは、すでにその後の活躍を約束されたようなものなのだ。日本の作家、名和晃平のガラスビーズに覆われた剥製の鹿が新人の作品としては度肝を抜く高値でアートバーゼルにおいて取引されたのは9年前。その後の彼の躍進ぶりを見ればアートバーゼルで“認識”されることがどれほど意味を持つかわかるだろう。もう一つの例で言えば、GUTAI。日本の戦後芸術団体のことなのだが、2012年から2013年にかけてニューヨーク近代美術館とグッゲンハイム美術館で相次いで、具体やその辺りの時代の展覧会をしたこともあり、アートバーゼルを訪れた人々が「GUTAI」と言っているなと思っていたら、この数年間で随分と作品発掘が進んだようで、今年は去年より多くこの時代の作品が会場で見受けられた。

93019e6a-506f-486b-adda-31373105478a

タカイシイギャラリーからUnlimited(前回記事参照)に出展された榎倉康二「無題 No.11,12,13 and 14」(1978年)

b896237b-1d60-4d18-a652-004db2a0840e

VOLTAという別のアートイベント(詳しくはアートバーゼル3にて)にアメリカのギャラリーから出展されていた古川吉重の1967年頃の作品。

こうしたアート界の動向を知ることは、アートコレクターにとっては投資の上でも重要なのは言うまでもない。注目を集め人気が出るほど作品価格が上がって行くのがセオリーだからだ。なるべくなら人気が白熱する直前でいい値で購入したいというのは人情。美術館にとっても、先の企画を考える上で参考になるのは当然だ。その動向は案外、人々の社交の席でのちょっとしたスモールトークで形成されていくもので、それこそが面白いポイント。

さてそれでは今年見つけたブームの萌芽は、南アフリカのアートとキューバのアート。共に欧米とは違う文脈の個性的な作家がいる上にまだまだ開拓の余地があるところだが、特にハバナにはアメリカとの国交回復を受け、早くも欧米のギャラリーが進出しており、来年はきっと多くの作品がアートバーゼルに登場するはずだ。リーズナブルな価格でいい作品が買いたかったら、今すぐにキューバに飛ばなくっちゃ。

 

1a6dbc3a-0e37-432d-8272-00f93f07261f

LISTEという別のアートイベントに出展されていた南アフリカの女性アーティストTuriyaMagadlelaによる作品「i MAID YETHU 1 AND 2」 (2016年)。カラフルなパーツにどこか見覚えがあると思ったらパンティーストッキング。今後アフリカのしかも女性アーティストは面白いのではないかと思う。

鴨澤章子

WRITER : Ayako Kamozawa

BACK