アートバーゼル3

前回まではアートバーゼルにまつわることを主に書いたが、この期間に行われるイベントは、ほかにもたくさんある。アートバーゼルに出展できないにしても、世界中からアートコレクターが集まる機会にぜひなんらかの形で出展したいというギャラリーは山のようにあり、それに応えるような形で開催されるのがアートバーゼルより小規模な3つの見本市、LISTE (上の写真が毎年会場として使われる元ビール工場)、VOLTA、SCOPEだ。

写真2JPG

VOLTAの会場はここ数年、バーゼル駅前の昔市場だったドーム型建物。

これらの見本市に出展される作品は、リーズナブルな価格のものが多く、しかも将来が嘱望される若手の作品も多いことから、目利きを自認するコレクターは、新しい発見を求めてこうした会場にもくまなく出没する。事実、アートバーゼルに出展する以前に小山登美夫ギャラリーはLISTEに参加しており、村上隆や奈良美智の作品なども最初はそこで展示され海外のコレクターの目に留まることで、実績を積み上げて来ている。

さらに10 年前からはDESIGN MIAMIというリミテッドエディションやヴィンテージの家具を取り扱うギャラリーが展示販売する見本市も登場。アートを飾るような家には、家具や調度品だってそんじょそこらのものではダメ、というわけで、大量生産の家具では飽き足らない人々にそれなりの需要があるようだ。

写真3JPG

DESIGN MIAMIでは昨年急逝したザッハ・ハディドの作品を集めた特設のコーナーも。

写真4

DESIGN MIAMIでパリのギャラリーから出展されていた隈研吾のパビリオン。こうした大型作品もジャン・プルーヴェを始め売れて来ている。

ほかにも関連のイベントは大小さまざまあり、それらが一週間にギュッとつまっているのだから、見て回るだけでもくたくたになってしまう。でもバーゼルの人々にとってはこの忙しい一週間そのものが年中行事で、家族揃って各種イベントを訪れ楽しんでいる。それもそのはず、アートを購入する予定や予算がなくても、アートバーゼルに行けば、ピカソやミロから最新作まで、展覧会を10件かけもちしても見られないほどの質・量の作品が見られるし、思いも寄らないアートの発想はいつだって気持ちをリフレッシュさせてくれる。そうやって小さい頃から親に連れられアートを見慣れているせいか、バーゼルに住む人々にとってアートはごく日常のものだ。どの家にも、どんな作品であれなんらかのアートがあるし、どんな人でもアートに関してなんらかのオピニオンがある。実はバーゼルには世界でもっとも古いと言われる公立美術館があり、アートと縁が深いのはアートバーゼルの存在だけではなく歴史的な背景があるのだが、その話はまた別の機会に。

写真5

Uulimitedの会場をお綴れていた親子連れ。ダン・グラハムの作品の中は子供たちにとってはちょっとした迷宮?

アートバーゼルが終わると、人々は今年もひとつ大仕事を終えた気分になって、バーゼルにバカンスシーズンがやって来る。7月に入るとちょうど学校が休みになることもあって、多くの人がどこかに出掛けてしまう。街はちょっと空っぽになった感じで夏を迎える。

鴨澤章子

WRITER : Ayako Kamozawa

BACK