2016.10.04 journey life
“ほぼバーゼル在住”の謎。
外国に住んでいる、というと、間違いなくどこかと聞かれる。そのとき、いつも答えに窮して、
「スイスのバーゼルの近く」とお茶を濁す。
これはウソではないが、正解でもない。なぜなら私が住んでいるのは本当はドイツだから。私の住む村の名前を言っても、ドイツ人でさえ知らないくらいだから、あえて言わないだけで。
まったくの意外なきっかけでドイツ南西部の端っこに住むことになったとき、私は、どうせだったら東京とはまったく違う暮らしをしよう!と思った。最寄りの都市は国境を越えたスイスのバーゼルだが、ビザの関係で私はスイスに住めないことはわかっていた。それなら、中途半端な都会ではなく、思いっきり田舎がいい。実は日本にいる頃から密かに田舎暮らしに憧れていた。でも、深夜残業、休日出勤は当たり前、早朝ロケや出張などもあった編集者として、東京を離れることはできなかったし、私の思い描くような美しい自然に恵まれた場所となると、東京に通える範囲にはなかった。
憧れだけではない理由もあった。外国に移住することになるとは露知らず、当時、野良猫の保護をしていた私には6匹の飼い猫があり、狭いマンション暮らしをさせていたその子たちに本物の自然を味わわせてあげたいと思ったのだ。
と、言う訳で出会ったのが今の住まい。
元々は古い農家の家を改装した家の1階部分が私の家(アパート?)で、なにより気に入ったのが広い裏庭。庭の向こうには丘の向こうまで牧草地や畑が広がり、これなら猫たちが交通事故に遭うこともないだろうと安堵した。
ライン川とシュヴァルツヴァルト(黒い森)に挟まれたこの辺りは、ドイツのワイン蔵として知られていて、うちの村もはずれまで行くと、一面、ぶどう畑が広がっている(冒頭の写真参照)。古代ローマ人がライン川を見下ろす高台に作ったという街道が村沿いに走っていて、古代から人が住んでいた場所であることは間違いないのだが、今は週末にのみ開くビオショップしかない田舎の村。スーパーも銀行も隣町まで行かなくてはならないのだが、その不便ささえ、周辺の美しい自然で帳消しになる。
ただ、実を言えば、ここからバーゼルまで車なら20分で行け、バーゼルに行けば、世界でトップクラスの美術館やかなりマニアな映画のかかるミニシアターなどが充実している。それらを享受しての田舎暮らしだが、このバランスは日本で実現するのはなかなか難しいのではないかと思う。東京は巨大すぎて自然からは遠いし、地方は疲弊して行く一方で文化面での発進力が弱い……。
先週の金曜日は、午前中バーゼルで新しいエキシビションのプレスコンファレンスに出て、友達と新しく出来たカフェでランチ。その後、村に帰って来て、ぶどう畑の中を犬と散歩。こうして私の“ほぼバーゼル在住”の日々は過ぎて行く。
WRITER : Ayako Kamozawa