春がやって来た!

長い間、肌寒い日が続き、なかなか温かさを感じられなかったバーゼルにも、やっと太陽のまばゆい季節がやって来た。

遡ること3ヶ月ほど前、バーゼルで春を告げるのは、いつもファスナットと決まっている。これは所謂カーニヴァルのことで、仮装をした人々が街を練り歩きながら、笛や太鼓を打ち鳴らし、冬を打ち負かし、春を呼び込む伝統行事だ。キリスト教より以前からある土俗的な風習で、ヨーロッパ各地で催されるが、バーゼルがユニークなのは、初日は朝4時の真夜中、更にショーウィンドウや街灯も消され真っ暗な中、ランタンを背負ったり頭に乗せた楽団がいくつも現れ、突然この賑やかなパレードが始まることだ。年によって開催日は異なるが、今年は3月6日から三日間。実際は春と呼ぶにはまだ寒すぎて、一足早く春を感じるために、ギリシャに飛んだ。

この旅は長年この地に別荘を持つドイツ人夫妻のご招待。前々からお声を掛けていただいていたのがやっと実現したのだ。彼らの家があるのは、首都アテネから車で3時間半ほどの海辺の小さな町。なんでも60年代、70年代のヒッピームーブメントの頃、当時、軍事独裁政権下で反政府運動をしていたギリシャの学生たちに同調し、ヨーロッパ各国や果てはアメリカからギリシャを訪れる人が多くいたという。彼らも若かりし頃にそうしてこの地に立ち、すっかり魅せられてしまったとか。その名残りもあってか、ここの町にはイギリス人やドイツ人の別荘が多い。(余談ですが、映画『マンマ・ミーア!』の主人公もそんな一人で、ギリシャに住み着いてしまったのだと思われる。)

彼らの家は二面から海が見晴らせる小高い斜面に建っている。大工さんに依頼しながらも、自分たちでも壁を塗ったり、セメントを混ぜたりして、何年にも渡りコツコツ建ててきた家は、2DKくらいとこじんまりしているが、よく手入れされた広い庭もあり、居心地がいい。

長年かけて完成させた友人夫妻の家。

居心地のいい居間兼ゲストルーム。

ある日の朝食の食卓。

小さくても使いやすいキッチン。

町にはギリシャ語でタベルナというカジュアルなレストランが数軒とスーパーが1軒あるだけで、イースター休暇前はまったく静かなもの。海に入るにはまだちょっと早いので、もっぱらの楽しみは近隣の村や山の散策。観光客はおろか地元の人さえほとんど歩いていない田舎道の要所要所には、今でも人々に愛されるギリシャ正教のチャペルの数々。そしてこの季節限定で楽しめるのは、道端に咲いている花、花、花……。もちろん、私の住むスイスやドイツでも野草は数々あるけれど、やはり南国のギリシャでは圧倒的にカラフルな花が多い。初めて見たのだが、野生のシクラメンもあり、鉢植えよりもはるかに小さく可憐な姿に思わず笑みがこぼれた。

ランチをした近隣の村のタベルナ。こうした店にはお客さんのおこぼれをもらいに来る常連の猫たちが必ずいる。私はいつも自分のごはんの大半をあげてしまうので、今回はキャットフードをスーパーで持ち歩いてあげることにした。

行く先々には名もない教会やチャペルが。中に入ると少しずつ修復されているところが多く、今でmp人々に愛され利用されていることがわかる。

ある村で歩いていたおばあさん。黒ずくめの服装は、未亡人であることの証らしい。

野生のシクラメンはこんなに可憐だ。

ギリシャの旅と言うと、遺跡群や高級リゾートのある島々が定番だが、友人夫妻のおかげで、メージャーな観光地巡りとはひと味もふた味も違う、素顔のギリシャに出会えた旅だった。

WRITER : Ayako Kamozawa

BACK