ハイジュエリーと超絶技巧

最近、ジュエラーのアーカイヴ作品を揃えた展覧会が、しばしば開かれます。そこに出展されているのは、たしかに最高の素材と制作技術を尽くした作品ばかりなのですが、ハイジュエリーが持っている権威の象徴的な面ばかりが強調されてしまうと、正直なところ、少々鼻につくこともあります。「西欧のハイジュエリーはすごいけど、日本にも負けない芸術作品がある!」と心の中で叫ぶことも。このようにヘソまがりの私も納得の、新しい視点から構成されたハイジュエリーの展覧会が、京都で開催されています。それは、京都国立近代美術館で開催中の「技を極めるーヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」。この展覧会がいわゆる従来のジュエリー展と違うのは、どんな点なのでしょうか。
まず、タイトルにうたわれているように、この展覧会は芸術作品を生み出す「職人の技」に着目しています。「日本とフランスの文化と伝統を象徴する都、京都とパリに受け継がれる、熟練職人の一子相伝の技。その根底に流れるのは、国や時代を超え、洋の東西を問わず相通ずる精神である」。このコンセプトを軸にして、パリで育まれたVCAのハイジュエリーと、京都の美術工芸作品の間の「技」の対比や、共通点、結びつきを紹介するという、これまでにない試みに挑戦しています。

展覧会の構成は3つのパートに分かれています。第1章は1906年の創立から現代までの、VCAの歴史的な作品を展示。全長20m近い檜の一枚板の上に、約80点の作品が並ぶさまは壮観です。
第2章は、東西の珠玉の技くらべ。日本の超絶技巧の七宝や陶芸、漆芸、金工などの工芸作品約50点と、それらに匹敵するVCAのハイジュエリー約100点が、同一空間に展示されています。安藤禄山による、「柿」「竹の子、梅」などの超絶技巧作品が一堂に揃うのも、見どころのひとつ。小さなジュエリーから大きな屏風まで、さまざまな大きさの作品が、ごく自然に肩をならべています。
そして第3章では、VCAのハイジュエリーと日本の工芸作家の作品を組み合わせて展示するという、 未来に向けた試みが展開されます。匠の技を凝らした東西の作品が融合し、新たな境地が誕生するーー観客はその現場の目撃者となるのです。
目の前にある東西の作品が、なぜ組み合わされたのか?それに対する解説はありません。見る人が自ら感じることで、何かが生まれる。答を提示するのではなく、判断を観客の感性に委ねることで、見る人の数だけ答が生まれます。展覧会に訪れた人全員が「参加する」ライブ感を味わい、従来の展覧会のような堅苦しさから解放されて、自由に作品を楽しむことができるように思います。

さらに、展覧会をより深く理解するためのプログラムも充実しています。5/29には宝飾史研究家のヴァンサン・メイラン氏、6/3にはVCAプレジデント兼CEOのニコラ・ボス氏と建築家藤本壯介氏、7/8にはVCAデザイナーの名和光道氏と京都国立近代美術館 学芸課長の松原龍一氏によるレクチャーが。またカタログでは、ミステリーセッティングなどのハイジュエリー制作のノウハウの一部を見ることができます。このように、これまでは秘伝とされてきたサヴォワールフェールを公開し、ハイジュエリーの新たな面を次々と展開してくれるVCAは、未来への視点を持った格別な存在なのでしょう。

⚫️ 技を極めるーヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸
〜8/6(日)@京都国立近代美術館(岡崎公園内) http://highjewelry.exhn.jp

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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