タイムレスなジュエリーが語りかけること

銀座のメゾンエルメス フォーラムで2月26日まで開催されている「曖昧な関係」展に、ジュエリー作家ベルンハルト・ショービンガーの作品が展示されています。Last Danceの武田さんからのメールに後押しされて出かけた展覧会で出会った彼の作品のおかげで、ジュエリーに関する仕事に携わって以来の疑問に、答えが見えてきたように感じています。それは、、、

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私は雑誌の取材で、いろいろなジュエリーを見ています。普段は目にふれることのできないハイジュエリーのユニークピースや、王侯貴族を飾ってきたアーカイヴピースは、どれも見事なものばかりで、時間を忘れて見入ってしまいます。
しかしこれらの贅を尽くした宝飾品のほとんどは、ひと握りの特権階級を対象に、彼らの威光を示したり、あるいは独占欲を満たすために、時間と労力を惜しまず作られたものです。そのケタはずれの手のかかり具合ゆえに、今までそしてこれからも残っていくであろうお宝なのですが、片や技術が発達して一般の人々に手が届くようになってからのジュエリーは、単なるプロダクトがほとんどで、タイムレスな作品が少ないのです。しょせん私たち一般人にとってのジュエリーはその場限り、一瞬の存在でしかないのだろうか?というモヤモヤが、心の隅にずっとひっかかっていました。

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ベルンハルト・ショービンガーの作品は、以前にスイスのチューリヒで見たことがあります。ただその時は、砲丸やガラス瓶のようなファウンドオブジェを使ったコンセプチュアルアート、という印象を強く受けたことにとどまっていました。今回の展覧会で改めて彼のクリエイションを様々な方向から確認できたことで、以前の捉え方が一面的だったことに気づきました。

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彼の作品は、技術を誇る美術工芸品ではありません。たとえば自身の親族の古い写真を破って、破片をゴールドチェーンで繋いだネックレスのように、記憶やストーリーのある素材を用いながら、デザインによってそれらを再構築しています。彼の作品を着ける人が、自らの身体=作品と触れ合った肌で何かを感じとることで、そこから所有者とジュエリーとの新たな関係が始まるのでしょう。ここではジュエリーのコンセプトが、所有者とは関係なく主体性を持ち、自立しています。まず所有者ありき、の王侯貴族の宝飾品との、決定的な違いです。それに加えて、旅先で見つけたガラス瓶や磨かない石と、緻密なカットを施されて輝く宝石、どちらもそれぞれに美しいと捉えることのできる、ショービンガーの感性がすばらしいと思います。素朴な素材を用いた作品に、コンセプトが貫かれたデザインが主役の「時を超える」モダンさを見出して、嬉しさがこみ上げてきました。ジュエリーと持ち主は、どんな時にも対等で気心の知れたパートナーのよう、というのが私の理想とする関係です。ショービンガーが創るジュエリーは、そんな想いを変わることなく受け止めてくれそうです。

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この展覧会では、アーティストが出展作品に込めた思いや、作品の背景を解説してもらえるギャラリーツァーが2/8、15、22の19時から開催されるそうです。タイムレスな魅力を持ったジュエリーに出会い、その言葉に耳を傾けて、何かを感じてみませんか。

⚫「曖昧な関係」〜2/26(日)11:00〜20:00(最終入場19:30)@銀座メゾンエルメス 8階フォーラム    参加アーティスト:ベルンハルト・ショービンガー、アンヌ・ロール・サクリスト、ナイル・ケティング

成瀬浩子

 

WRITER : Hiroko Naruse

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