マドモアゼル シャネルとジュエリー

冬休みに、昨年秋に刊行された「素顔のココ・シャネル」(河出書房新社)を読みました。フランスの歴史作家イザベル・フィメイエが、シャネル社のアーカイブ部門の協力を得て、ガブリエル シャネルの私的な側面ーー信仰や精神世界、文学や詩、家族、愛した男たちetcーーにスポットを当てた、興味深い内容の伝記です。

IMG_3499
マドモアゼル シャネルは、唯一の身内である、彼女が息子のように育てた甥アンドレ・パラスの娘、ガブリエル・パラス=ラブリュニに多くの「大事なもの」を託していました。最愛の人からのプレゼント、お守り、珍しい資料や手紙、手書きの原稿、個人的な衣服、家具などなど、、、その中には、お気に入りのジュエリーも含まれていたそうです。
この本は、ガブリエル・パラス=ラブリュニが語り手となって、「ココおばちゃま」と呼んでいた叔母マドモアゼル ガブリエル シャネルの、これまで触れられたことのないプライベートな側面を紹介していきます。なかでもジュエリーは、マドモアゼルにとって特別な存在だったようです。ガブリエル・パラス=ラブリュニは、「おばは象徴的な時代や、大切な人と結びつくジュエリーをお守りのように身につけていました」と述べています。

IMG_2876
写真のエメラルドのネックレスは、「ベニーおじさま」と呼ばれていた、ウエストミンスター公爵からの贈りもの。
「ウエストミンスター公は、彼女にいくつものエメラルドを贈りました。とくにこの30個ほどの四角いエメラルドにローズカットのダイヤモンドをあしらったネックレスは素晴らしく、彼女はいつもシンプルな厚手のセーターや、細身のドレスにつけていました。」
TPOがまだ厳然と存在した時代に、とびきりゴージャスなネックレスをセーターに合わせるセンスは、まさにマドモアゼル シャネルの面目躍如!そして、さらに話は続きます。
「これは5つのブレスレットとひとつのブローチに分解できたので、彼女はブレスレットをひとつだけつけるか、1964年にカルティエ=ブレッソンが撮った有名なポートレートのように、 ブローチにパールを3つつけ加えてアレンジしていました。」

IMG_3496

そのネックレスに、変化の時が訪れます。
「ある日、彼女はこのネックレスを分解してブレスレットとブローチにし、それらを身近な人、いちばんは私の母と私に贈っていました」
なぜ彼女はお気に入りのネックレスを解体、リメイクしたのでしょう。この伝記には、マドモアゼル シャネルはジュエリーのリメイクを趣味にしていた、と書いてありますが、私には、単なる趣味の範囲を超えていたように思われてなりません。少なくとも、同時期に生きた有閑マダムたちのそれとは違っていたはず。妄想に過ぎないかもしれませんが、大切なジュエリーをリメイクすることで、そこに込められた思い出をひとつずつ整理していった、マドモアゼルの姿が浮かびます。その結果、新たなデザインと価値観を持つジュエリーが誕生するたび、彼女の精神も生まれ変わっていたのではないでしょうか。ジュエリーのリメイクは、ひとつの価値観にとらわれ続けることのない彼女だからこそできた、深い意味のある行為だったように思います。

成瀬浩子

 

 

WRITER : Hiroko Naruse

BACK