バーゼル その1

台風15号の影響が色濃く残る中、喧騒の羽田空港からスイスのバーゼル在住の鴨澤さんを尋ねて飛行機に乗った。

経由地のフランクフルト到着が遅れ、空港スタッフが急いで誘導してくれたものの(フランクフルトは世界有数の大きな空港。1時間少しの乗り換えの時間では足りない!)、予定のバーゼル行きの便に乗り遅れ、結局2時間後の便になった。

空港に迎えに来てくれた鴨澤さんと会った時にはホッとした。

鴨澤さんは、Last Danceのブログに寄稿してくれているフリーのライターだ。

 

あらためて気がついたが、スイスはドイツ、フランス、オーストリア、イタリアの4か国に囲まれた九州本島より少し大きいだけの小さい国だった!普段、テレビや新聞で特に大きいニュースで報道されることが少ないせいか、その小ささを忘れていた。

バーゼルは、スイスの北西部、ライン河が流れるドイツとフランスの国境近くにある人口17万人程度の小都市。

たった5日間だったが、バーゼルの素晴らしさを体感する滞在になった。これを書いている今も、バーゼルの心地よい風が吹いているような気持ちになる。

 

鴨澤さんの住まいはドイツにあるが、一路ハイウエイをバーゼルに向かう。ワーゲンの後ろの座席には犬のケージが積んであり、愛犬プニが中でおとなしく待っていた。ハロー、プニ!会えたね!初めての対面なのに唸らないぞ。よかった。

鴨沢さんは地元の人らしい頼もしいハンドルさばきでハイウエイを進む。30分も走っただろうか、彼女のパートナーの家に着いた。日本でいうと、蓼科や清里の森のような別荘地のイメージに近いだろうか。町の中心から20分くらいの静かな住宅地にあるデザインされた素敵な家に到着。

パートナーの家

ここで鴨澤さんも大半の時間暮らしている。ドイツのアパートには(以前、鴨澤さんのブログで紹介)猫が一匹いて、時々戻る鴨澤さんを待っている。

 

鴨澤さんは10数年前まで、東京で雑誌の編集者をしていた。

色々な縁があって、ドイツにある有名なヴィトラミュージアムで仕事をするようになった。多分、その頃は鴨澤さんの人生の大きな節目になったのではないかと勝手に想像する。バッサリと自分の人生を切り替えた?しかも日本から遠いドイツに来たのだ。勇気あるなあ。

プニ。大人になりました。女性です。

私が衝撃を受けたのは、彼女がドイツに渡る時、その頃飼っていた6匹の保護猫を全員連れて行ったことだった。えー!普通は大変だから里親に出すとか違う方法を考えるでしょ。1匹ならまだしも!

え、でも私の責任で最後まで育てたいと思ったのよ。そりゃ手続きとか大変だったけどね。とさらりと言った。

驚いた。私ならどうしただろう。いくらなんでも6匹だ。

動物好きは人後に落ちない私だが、生易しい気持ちでは海外に自分一人で愛猫を6匹も連れ出すなんてできそうにない。

自分の人生を大きく切り替えようとしている時に、これは重荷になると考えそうだ。そして後であの猫たちはどうしているだろうと心配する自分。

そんなことを考えるくらいだったら、えーい、みんな一緒だ、と考える方がまっとうで楽かもしれない、と鴨澤さんは考えたか。あるいはそんなことを考えずとも当然のことだったか。

その話を聞いてから、この人は信用できると思った。

ベランダの大きい石臼。水が張られている。

そんな鴨澤さんだから、生活ぶりもすっきりしていてシンプルに見える。フリーで仕事をしながらパートナーとの生活を大事にしている様子はとても自然だ。ファッションもいたってシンプル。ジュエリーもほとんどつけない。こういう自分の生き方と生活が一本通っている人のセンス、良いなあと思う。

 

刻んだりんごを入れて暖かくしたシリアルと(これが美味しい!)ちょっと硬めのパンと生ハムを少し、それと紅茶かコーヒー。

おしゃべりしながらいただく朝ごはんは気持ちをほぐす。

外のベランダには人が入れるくらいの(実際、パートナーは夏には

そこで水浴びをするらしい!)大きな石臼に水が張ってある。

その遠い向こうには森や山が見える。

 

そう、私は鴨澤さんとパートナーの住まいに4日間お世話になることにしたのだ。

 

「さて、今日はあそこに行きましょうか」と鴨沢さんの声がかかる。

 

いよいよ楽しいバーゼルの一日が始まる。 

 

続く

WRITER : Chigako Takeda

BACK