世界で一番美しい元素図鑑

「世界で一番美しい元素図鑑」(原題/The Elements)発行/創元社という本がある。
ジュエリーを作るようになってから、自然と鉱物にも関心が向くようになったその延長線上で、この本に出会った。元素などというと何だか難しい説明を想像するが、この本の著者、セオドア・グレイ(Theodora Gray)は、化学式や元素記号など全くチンプンカンプンの私のような者にもわかりやすくユーモアとウイットたっぷりに説明をしている。それがどのような性質を持っているのか、現実の生活のなかでどのように私たちと関わっているのかーー。こんな具合だ。

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83(元素番号)Bismuthビスマス

胸やけや胃もたれを抑える「ベスト・ビズモル」ブランドの胃薬は、有効成分の57%が(重量比)がビスマスです。なんとも奇妙な話ではありませんか。ーービスマスの左隣の鉛(82)は玩具業界が製品から排除しようと努めたほど毒性が強く、右隣のポロニウム(84)は近年ロシアの悪党が邪魔者を排除するのに使ったほど放射能が強いというのに。(注/元素番号が隣どうしの場合はその性質が似ている)有害金属のど真ん中に位置するにも関わらず、現在私たちが知る限り、金属ビスマスは完全に無害です。(可溶性のビスマス塩を大量に摂取すると歯茎が黒くなるなどの副作用が出ますが、そういうことは非常に稀です)ビスマスは最後の安定元素として知られています。ーー中略ーー安定元素の領域を離れるのは、ちょっと名残惜しい気がしますね。これから先の元素は、身の回りに置いておくには危険すぎて、保健衛生上および国家安全保障上の理由から厳しく規制されています。ーー中略ーー放射性元素の道は、一族の中でも群を抜く存在のポロニウムから始まります。(注/ちなみにポロニウムはキューリ夫妻によって発見され、祖国ポーランドにちなんで名付けられた)

ただ、元素の事を語るのに重要な「周期表」の説明は読んでいくうちに途中で挫折する。(全ての元素には原子番号がつけられている。1の水素から始まって118のウンウンオクチウムまで)やっぱり科学的な関心と知識があった方がもっと理解できるのだということがわかる。
しかし、科学的な知識に乏しい人にもこの本は魅力的でおくが深い。元素を愛して止まない自称・元素オタクのグレイ氏の思いが、その明快で美しい写真や軽妙洒脱な文章に表れていて、読んでいる者を飽きさせない。まさに、Sense of Wonderの世界だ。一方で、それらの元素の発見が原子力や核兵器の製造に繋がっていることも明確に触れていて、すべて表裏一体であることを私たちに理解させる。美しさと楽しさの裏には猛毒が潜んでいると言っているかのようだ。

 

WRITER : Chigako Takeda

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