バーゼル その2

バーゼル初日は、有名なバイエラー財団美術館を訪ねた。
15年ほど前に一度来ているが、広い庭と美術館のエントランスの
横にある蓮の池は変わらず美しく、館内も変わらない印象だった。
広い庭の木々や芝生も綺麗に整備されていて、野外作品も映えて美しい。
バイエラー夫妻が収集した作品とそれを公開するための環境がここまで維持されているということに感激する。

バイエラー財団ミュージアム、入り口横の蓮の池

もちろん、収集作品だけでなく、新しい企画展も定期的に行われている。訪れた時はRudolf Stingel展が開催中だった。観光客だけでなく、老若男女の市民も訪れていて、美術館が人々の生活に馴染んでいるのを感じる。バーゼル市内には30を超える美術館があるらしいが、このような個人の資産で作られた美術館も多く、アート好きにはとても魅力的な町だ。

ミュージアムの庭

ここの地下で、ルイーズ・ブルジョワ最晩年の小さい作品の展覧会が行われていた。赤い線や点で小さい画面に抽象的な形が描かれている。その抽象画が小さい展示室の壁に規則的に掛けられている。
巨大な蜘蛛の「ママン」を作った作家が、亡くなる間際まで描き続けた作品はとても小さく可愛らしかった。ルイーズ・ブルジョワには大きくても小さくても、描く、作るということが生活であり、人生だった。そう思うと不遜ながら、娘を見る母親(ママン)のような気持ちになってしまい、胸がジンとした。
写真で見たニューヨークのアトリエは小さいけれど窓から柔らかい陽が入り、たぶん彼女が疲れた時に横たわるベッドも清潔そうで質素だった。部屋には綺麗な空気が流れていた。

ルイーズ・ブルジョワの作品

その後は、鴨澤さんにバーゼル市内を案内してもらった。
メインストリートには有名ブランドのブティックも並んでいる。でも、人で賑わっているのはやはりスーパーマケットや生活に直結した様々な店やレストランが立ち並ぶ通りだ。トラム(路面電車)が走り、おしゃべりしながら人々が行き交う。バスラー・ミュンスターの広場の前では人が集まって上を見上げ、管楽器の演奏が始まるのを待っている。犬を散歩させる老夫婦が観光客らしき人と話しをしている。
都市には違いないが、東京やニューヨークなどのように誰もが急ぎ足で前かがみで歩くような雰囲気ではない。

スイスは、世界一の富裕国と言われているけれど、実際は貧困層も多いと聞く。その国が経済的に低迷し、荒れているかどうかは、街を歩くとわかる。メインストリートでもゴミが散乱し、どことなく汚れている。少ない経験からそれが実感としてある。しかし、バーゼルからそれは感じられなかった。綺麗で良い町だなというのが5日間を通しての印象だ。

教会の前の、広場の家並

大教会バスラー・ミュンスター

夕暮れにはライン河のほとりを歩いた。河が街を貫いて流れている事で、もしかしたら人々の切羽詰まった気持ちを一旦落ち着かせる役目を果たしているのではないかしらとふと思った。誰だって苦労や悩みを抱えて生きていると思うけれど、河が一旦それを断ち切って立ち止まらせ、思考回路の切り替えをさせてくれる・・・。だから人々があくせくしている感じがない・・。
そんな勝手な思いに関係なくライン河は悠々と流れている。

ライン河


その日の夜は、鴨沢さんのパートナーと落ち合い、野外レストランで
夕食をいただく。隣の席は、どうやらフランスから来た親子とおとなしい大型犬。バーゼルで遅いバカンスを楽しんでいる様子だ。

時差ボケも感じず、楽しく1日を過ごした。

続く

WRITER : Chigako Takeda

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