時代を超える、半逆のファッション

9月28日発行のT JAPAN7号で「FASHION AS PROTEST(反逆するファッション)」という、面白い記事をみつけました。18世紀のフランスで社会の転換期に出現した、「アンクロワイヤブル」と呼ばれる異形のファッションに身を包んだ若者たちについて書かれたものです。彼らはフランス革命後、ロベスピエールらによる恐怖政治に異を唱えるように抬頭しました。シンボルは、わざとパッドを入れて内側から膨らませた、いびつでまったくサイズの合わない薄汚れた服。前身頃は胸の下でカットされているのに、後ろ姿は床に引きずるほどのロング丈に仕立てられた、ぎょっとするような(今で言うところのアバンギャルドな)デザインもあったそうです。当時の体制では、これらは「自由」の敵とみなされて、罪に問われる服装。その社会通念をあざ笑うかのように、彼らは「いつギロチンの刃が落ちてもいいように」との意味を込めて、髪を前に向かってとかし、首の後ろを剃り上げていたといいます。また女性版「レ・メルヴェイユーズ(すばらしき女性たち)」は、下着を思わせるような透けるドレスをまとい、首切りを示唆するかのように、首に赤いリボンを巻いていたそう。そんな彼らの大胆な姿勢を、人々は恐れを込めて「アンクロワイヤブル(信じられない)」と呼んだのです。

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「アンクロワイヤブル」のファッションは、当時の社会通念に対する痛烈な批判を込めたものでした。同時に彼らは、異形の服によって、身体に対する既成概念をひっくり返してみせました。この記事の著者ALEXANDER FURYによりますと、「若さと奇抜なファッションは常に交差しているのだが、ひとたび社会に危機が訪れると、若者たちは極端なファッションに走り、それを通して異議を唱える」。18世紀の「アンクロワイヤブル」は、1980年代にジョン・ガリアーノのセントラル セント マーチンズの卒業制作コレクションで、再び注目を集めました。その背景にあったのは、70年代以降大不況にみまわれていたイギリス社会でした。そしてさらに、コム デ ギャルソン2016秋冬コレクションで、3度目の復活。現代社会に満ちる不穏な空気、しかしそれを恐れて守りに入ることなく、装う自由を高らかに主張するデザインには、時代を超えるムーブメントが感じられます。すべてに共通するのは、社会の体制や常識に抗う、パンクの精神。「反抗こそが、周囲を挑発し、心をかき乱すようにたくらまれた服装に人々を惹きつける原動力なのだ。群衆の中で埋没してしまう無難な服ではなく、とびきり目立つ服。”人と違うこと”こそが、抵抗するための武器だ」と著者は述べています。

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過剰、誇張、高級志向を持った、異端の形。これにぴったりあてはまる、ジュエリーがあります。それはディオール ファイン ジュエリーの、その名も「アンクロワイヤブル&メルヴェイユーズ」コレクション。花や小動物で飾られた巨大なリングには、ただ綺麗なだけではない不思議な魅力、突き詰めると異形に対する違和感と興味がミックスされて、見る者の心を揺さぶる大きな要因となっています。このとびきり目立つ大きさとデザインに、ディレクターのヴィクトワール ド カステラーヌの「常識の枠を超えて、もっと自由に楽しんで!」とのメッセージがこめられているようです。

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とはいうものの、巨大で高価なジュエリーを手に入れられるのは、ひと握りのマダムたちに限られます。手仕事を尽くしたファッションにも、程度の差こそあれ、同じことが言えます。これって大きな矛盾!と思うのは、私だけでしょうか。

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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