ハイジュエリー×キャンプ@METガラ

仕事がらハイジュエリーを撮影する機会が多いのですが、その度に今度はどうやって撮ったものかと、頭を痛めています。その理由は、唯一無二の価値を持つハイジュエリーであるがゆえに、あまりに完璧に「マジメ」に作られていて、イマドキの抜け感(遊びや隙ともいうべき感覚)が感じられない点にあります。その頑なな姿勢を崩して、なんとか今までにない表情を引き出せないかと、毎回苦心惨憺しているのです。

そんな中、ハイジュエリーへのアプローチの新しい可能性を、先日開催されたMETガラで発見しました。今回のテーマ「キャンプ」が、ハイジュエリーのキメキメなアティテュードを軟化?させ、面白い効果を生んだケースが、わずかながら生まれたように思います。
そもそも先日のガラは、ニューヨークのメトロポリタン美術館で催される「キャンプ:ファッションについてのノート」展のオープニングを祝うイベント。この展覧会は、1964年にスーザン・ソンタグが著したエッセイ「“キャンプ”についてのノート」に着想を得て、企画されたそうです。
ではお題の「キャンプ」とは?「キャンプ」展についての記事を読んでみますと、大げさ、誇張、歪曲などの外見に関わる解釈に加えて、「皮肉やウィットが必要」「社会の変化と連動する、時代を写す鏡」といった根本精神に触れる表現も目につきました。じつは私はずっと「キャンプとは、既成の美意識に対する反骨精神の表れ」と捉えてきました。これまで見た中で最高にキャンプな光景は、コム デ ギャルソンのコブドレスを着た大勢のダンサーが躍動するシーンだと思っています。今回のセレブが集うMETガラとは少々ベクトルが違うかもしれませんが、キュレーターのアンドリュー・ボルトンが「キャンプとは、主観的で曖昧なもの」と語っていることをふまえて、独断と偏見による勝手な視点から、ハイジュエリー×キャンプ@METガラ を読み解いてみたいと思います。


それでは、さっそく画像を見てみましょう。ハイジュエリーの新しい可能性を体現(大げさ?)する3名のセレブリティのコーディネートに、それぞれ賞を考えてみました。まず「これは外せないで賞」を、4変化のレディー・ガガに。ティファニーのハイジュエリーのネックレスと多数のリングを着用しているのですが、ジュエリーがいちばん目立ったのが最後のオチ=下着ルックの時だったのは、ちょっと皮肉な気がします。バタフライ モチーフのネックレスに、大ぶりのリングを両手いっぱいにつけたtoo muchなコーディネートが、ユーモラスでありながらカッコいいのは、彼女だからこそですね。

次に「スタイリングの勝利で賞」を、リリー・コリンズに。彼女の着こなしがキャンプかどうかは別にして、カルティエの超マジメなハイジュエリーネックレスとイヤリングを、ディズニー映画のプリンセスのようなファンタジックな世界に落としこめたのは、スタイリングのマジックのなせるワザなのではないでしょうか。ヘアとメイクがもう少しゴスっぽくてもよかったのでは?と思いますが、誰だかわからなくなっても困るのかもしれません。笑

そして「ベストキャンプ賞」は、ルピタ・ニョンゴに決定!彼女のコーディネートは、トータルで発揮されたサイケデリック(?)な色彩感覚が抜群です。ブルガリのヘリテージコレクションのカラーストーン ネックレスは、これぞハイジュエリー!の王道アイテム。レインボーカラーのヴェルサーチのドレスと、大げさなヘアメイクも◎。髪にたくさん飾られたゴールドのバレッタが、ハイジュエリーを損なうことなく、共存しているのがすごい!と思います。ネックレスに加えて、イヤリング、ブレスレット、リングもブルガリのハイジュエリーなのですが、セレクトも組み合わせ方も見事です。

ハイジュエリーはもともと、欧米の支配階級の権力を示す役割をになって発展しました。それらに施されたオンリーワンの宝石や匠の技を、権威の象徴として崇めるだけではなく、見る人を幸せな気分にしてくれる存在として、また次世代に伝えていきたい文化として、幅広く皆で楽しめたらいいのに、と思います。METガラをはじめとする注目のイベントは、より多くの人にハイジュエリーに興味を持ってもらえる、絶好のチャンス。またこの機会がなければ、ほぼ対極にある「キャンプ」との出会いは難しかったと思います。自由で個性的な生き方を尊重する「キャンプ」からの刺激が、ハイジュエリーの世界に新たな可能性をもたらすことを願って!

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

BACK