MD、まだ持ってますか?(1)その再生にむけて

 100年後に書かれる音楽とメディアの歴史に、おそらくMDはほとんど登場しないだろう。日本でも本格的に定額制の音楽配信サービスが展開された2015年現在、CDも今なおパッケージとしては生き残っているし、レコードやカセットテープの懐古的な再評価も進んでいる。だが、MDはどうだろうか。かろうじてディスク自体の生産は続いているものの、この記録媒体の普及を主導したSONYは、2013年の段階でポータブルプレイヤーの生産を打ち切った。MDの最盛期は、おそらくブロードバンドとiPodが普及する前夜のごく短い期間、具体的には1990年代末から2000年代前半にかけてのことであろう。巨視的に見れば、その栄光は俗にいう「CDからネットへ」という大きなシフトが起こった際に、さまざまのメディアの摩擦によって生じた、ほんの小さな火花のようなものだったのかもしれない。

 それでも、自分が始めてMDを手にした中学生当時、それは間違いなく最新のかがやかしいテクノロジーであり、火花どころか大輪の花火のように鮮烈な経験をもたらした。ある友人などは親にMDウォークマンをねだったところ「中1にはまだ早いからこれで我慢しろ」と言われてカセットウォークマンを買い与えられていたほどである。今となってはそんな説得に応じた友人もどうかとは思うが、とにかくそのぐらいすごいものだった。いざプレイヤーを購入する覚悟を決めてからは、お年玉をためて何度も家電量販に通っては、さまざまな機種の機能を比較した。憧れのMDウォークマンを手に入れてからも、せっせと近所のレンタル店に通いつめて、曲のよしあしを吟味しながら圧縮率を調整し、曲順をみみっちいリモコン操作でせっせと入れ替えては私的ベストを収録したMD制作にいそしんでいた。

 おそらく同じような経験をした人は少なからずいるはずだが、その文化は今やほぼ失われつつある。MDは、カセットとは異なりもっぱらリスナーによるパーソナルな記録用の媒体として流通していたこともあり、中古店に並ぶこともほとんどない。おそらく、その大部分はすでに廃棄されているか、その役目をハードディスクや配信サービス上のプレイリストに譲ったのち、日本の各家庭(筆者の知る限りMDが一時的にとはいえ爆発的に流行したのはこの国だけである)の棚の奥で深い眠りについていると思われる。

 この連載では、そんなMDを人づてに発掘し、MDにまつわる些細な記憶を書き残していきたいと思う。手始めに筆者の自室を探してみたら、すんなりと数枚のMDが発掘された。次回は、そのなかの一枚を再生し、10年前の筆者の経験をひもといてみよう。

※この連載では、すっかり無用の長物になったMDを募集しています。内容は音楽に限らず、どんなものでも歓迎です。むかしのMDを持て余している方は、筆者の高橋(sotatkhs@gmail.com)までご連絡ください。

WRITER : Sota Takahashi

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