パワフルな“ナナ”は永遠のアイドル

ナナ3

スイス国鉄のチューリヒ駅をご存じでしょうか?その構内に、ニキ ド サンファル作の巨大なバルーンの”ナナ”が浮かんでいます。2000年に初めて時計フェアの取材でスイスを訪れ、初体験の異国の列車に緊張して向かったチューリヒ駅。そこに顔なじみのダンシング ナナがいて、「こんな遠くまでよく来たね!」と迎えてくれました。不覚にも涙がこみあげそうになった、数少ない体験のひとつです。
チューリヒでの再会から先立つこと5年、私は当時那須にあった(2011年閉館)ニキ美術館を訪ねました。そこで写真ではない「本物のナナ」に出会い、その圧倒的な存在感に驚きつつ、破天荒で野性的なのびやかさに、すっかり魅入られてしまったのです。「ナナは私、そして同じ思いを抱いている見知らぬあなた」と直感で感情移入できたアートは、ナナが初めてでした。当時の私は海外取材に出かけることが多かったのですが、行く先々でナナを発見するたびにパワーをもらい、同時にホッと安心できたことが忘れられません。フランスとアメリカはいうまでもなく、北欧でもオーストラリアでもナナを見かけました。それだけ世界中で多くの人々に愛されているのでしょう。

時計の取材でスイスに毎年通うようになって、ニキのパートナーのジャン・ティンゲリーについても詳しくなりました。彼はニキとともに、パリのポンピドゥーセンターの噴水の動く彫刻を創ったアーティストです。時計フェアが開催されるバーゼルはアートの街として有名ですが、ティンゲリーの出身地でもあり、ライン川に面した最高のロケーションにティンゲリー美術館があります。彼の死後ニキが中心となって建てたものだそうで、ここで私は、ふたりのクリエイターがどれほど深い信頼感で結ばれていたかを知りました。ハリボテに見えるニキの巨大彫刻の基礎は、じつはティンゲリーの助力によって、緻密に製作されていたのです。

ナナはその強烈なキャラクターゆえに、アートとしてあまり高く評価されないことが多かったそうです。たしかに異形!ニキと岡本太郎や草間弥生のクリエイションは、同じ匂いがします。しかしどんなに奇想天外であろうと、クリエイターが苦しみぬいてこの世に送り出した作品は、彼らが去ったあとも輝き続けます。ニキはそれを知っていたのでしょう、20年の歳月をかけて、創造の集大成ともいうべき理想郷“タロットガーデン”を完成させました。いつかそこを訪ねたい!トスカーナの自然に囲まれたナナの仲間たちが「ようこそ!」と、私を体ごと包み込んでくれるような気がします。
成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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