花々とジュエリーの饗宴

去年から家で過ごす時間が増えて、花の世話に時間をかけることができるようになりました。見ればみるほど、毎日新たな発見の連続です。花はジュエリーの題材にとりあげられることが多いのですが、実物とくらべてみると、なるほど!と宝飾職人のみごとな表現に気づかされます。たとえば今、庭で花ざかりのデイジー。↓この花々とVCA のアーカイブピースのデイジー リングが、ぴったり重なります。そこには、ジュエリー制作者の繊細な観察眼が。可憐な花がいくつも重なって生まれる量感が、いっそう魅力的な表情を創りだしていることまで、ジュエリーに表現されているのに驚きました。

そのVCAが、花をテーマにした期間限定のエキシビション「LIGHT OF FLOWERS ハナの光」を開催しています。華道家の片桐功敦(かたぎり あつのぶ)氏による花々と、VCAの花のピースが共存する空間を覗いてみました。
会場は代官山のT-SITE GARDEN GALLERY。足を踏み入れた瞬間、壁面を覆う花のビジュアルと、水辺に立ったような雰囲気の展示に引き込まれます。続いて水盤のようなスペースに目をやると、水の中にさまざまな種類の草花が、思い思いに佇んでいます。その組み合わせは、季節や国を超越した、常識ではありえない「夢のような」コラボレーションです。↓


(C)Van Cleef and Arpels

最初は溢れんばかりの色彩に圧倒されていたのですが、よく目をこらしてみると、水面に何か白いものが写り込んでいることに気づきました。それは、天井に配された花の根?の写真のようでした。ちょうどそこに片桐さんがいらしたので、「あの写真は根っこですね?」と聞いてみました。
「そうなんです」と片桐さん。「物事には光のあたる(見えている)部分とあたらない(見えない)部分があります。花というと、みなさんが思い浮かべられるのは華やかな姿だと思いますが、それは根っこがなくては成り立ちません。今回の展示では、花というものをさまざまな角度から見ていただく機会になれば、ということも心がけました」。
ふだんから「花のあるがままの姿を表現したい」とのポリシーを持つ片桐さん。「VCAの作品には、小さな名もない花が生き生きと表現されています。そこに花への深い愛を感じ、制作に携わった職人の心意気に大いに共鳴しました」


(C)Van Cleef and Arpels

「今回の展示では、洋の東西を問わず集めた自然の草花が、一堂に会しています。倒木は自分で山に入って見つけたものです」と片桐さん。あらゆる要素をミックスさせながらもtoo muchに感じないのは、ひとつひとつの草花の本来の姿かたちを知り尽くした彼だからこそできたことなのでは?と思います。生け花とは全く違った表現ですが、どのような気持ちでアプローチなさったのでしょうか。伺ってみました。
「生け花の場合は、たとえば床の間のように限られた空間の中に花の美を表現するのですが、今回は広い空間全体を使う展示。どの方向から見ても美しく見えるように、と考えました。花を見るときに、腰を落として目線を低くしてみてください。また違った景色が見えてくるはずですから」

↓「小さな花が集まった、VCAのジュエリーをイメージした作品です」

↓ 目線を低くすると、細かなディテールが見えてきます。自然の草花の楚々とした佇まいに惹きつけられます。

↓会場奥の壁面にはいくつもの窓があって、歴代のVCAの花のピースが展示されています。1950年代制作の上記のデイジー リングと、同じモチーフのイヤリングをはじめ、1930年代からの貴重な作品にふれることができます。

さざ波のような曲線が連なる壁表面の仕上げは、このためにデザインされ、漆喰の職人さんの手によるものだそうです。「水」を媒介にして花とジュエリーが響きあうエキシビションの、象徴のようにも見えました。(壁の写真がなくて失礼)

今この瞬間を生きる花と、永遠の命を得た花。有機的なものと無機的なもの。生け花とジュエリーは相対するふたつの存在ですが、どちらも一瞬の生命の輝きを凝縮して、見る者の心を揺さぶる点で共通していると思います。
この展示は、そうした大きな感動とともに、じわじわと湧き上がってくる不思議な感情を呼び起こします。片桐さんの「こんな状況ですが、山歩きをしていてふっと野の花に出会ったような、心安らぐひとときを味わっていただけたら嬉しいです」という言葉が、それを言い当てているように思いました。会場に差し込む光を受けて、時にほのかに、また時にキラキラと輝く花々。都会にいながらにして、自然の生命力のきらめきを感じることができました。

このエキシビションはLINEアカウント(@vancleefarpels)”による予約制です。↓
また開催中にVCA銀座店では、片桐氏と金属造形作家 鈴木祥太氏のコラボレーションによって「ハナの光」の世界がウィンドウに表現されるそうです。(緊急事態宣言による変更については、お問い合わせください)

photos:”LIGHT OF FLOWERS”
アイキャッチ画像: (C)Van Cleef and Arpels

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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