アーカイヴピースが呼んでいる!?

Stay Homeの最中に、アンティークジュエリーに関するビッグニュースが入ってきました。4月に開催されたサザビーズ ニューヨークのオンライン オークションで、カルティエの“トゥッティ フルッティ”ブレスレット↓が約1億4000万円で落札され、これはオンライン オークションでのジュエリーの最高落札価格だそうです。この結果を「現在のような状況下でも、優れた芸術性を持つ作品の価値は変わらない」と捉えた記事を読んで、歴史的価値を持つアーカイヴピースに関して、いろいろと思うことがありました。
↓画像はサザビーズ ニューヨーク オフィシャルサイトより

まず最初に、コロナ禍をものともしなかったジュエリーとは、どんな作品なのでしょうか。“トゥッティ フルッティ”は、カルティエを代表するスタイルのひとつで、1920年代から現代に至るまでさまざまなバリエーションが制作されています。
カルティエ オフィシャルサイトで、その変遷を見ることができます↓
大きな特徴は、宝石に施された彫刻と、独特のカラーコンビネーションにあります。そして、素材の宝石(エメラルド、ルビー、サファイアなど)のひとつひとつが、葉、花、木の実、果実を表現しています。落札されたジュエリーの制作年などの詳細は発表されていませんが、価格から見ても、アーカイヴピースに匹敵するものと思われます。

1920年代といえば、カルティエのシンボルともいえるアールデコの時代。しかし、“トゥッティ フルッティ”は、ちょっと毛色が違います。’11年にピエール・カルティエがインドのマハラジャを訪ねた際に、ヨーロッパにはなかった宝石に彫刻する伝統的な技法に出会い、インスパイアされたのが始まりといわれています。以後10年に渡って、メゾンは植物を題材にした作品に、エングレーヴ技法を用いたとの記録が残っています。当時の台帳には、この技法を用いたピースは「葉」という項目に分類されていました。このスタイルが“トゥッティ フルッティ”と呼ばれるようになったのは、’70年代に入ってからで、‘89年にメゾンによって商標登録されました。

この“トゥッティ フルッティ”は、私も大好きなデザインのひとつです。‘95年に東京都庭園美術館で開かれた「フランス宝飾芸術の世界展 The Art of Cartier」で初めて実物を見たのですが、カラーとボリュームの存在感に圧倒されました。それまでの「カルティエ=モダンで直線的、モノトーン」のイメージはもののみごとに打ち破られ、新たな魅力に気づくことができました。なかでも’36年にデイジー・フェロウズのために創られたネックレスが、今もいちばんのお気に入りです。
↓ 昨年、東京の新国立美術館で開催された「カルティエ、時の結晶」展で、ひさしぶりに再会しました

じつは私は、“トゥッティ フルッティ”などのアーカイヴピースのお気に入りをリストアップして、機会をとらえては「追っかけ」ています。着けて楽しむだけでなく、こうした「見て楽しむピース」の存在も、ジュエリーの大きな魅力と感じています。たとえ手が届かなくても、最高の宝石とテクニックで制作された世界にただひとつの作品は、いろいろなことを教えてくれます。数多くのアーカイヴピースと向き合う経験を積むうちに、ジュエリーに対する自分なりの視点が確立されてくるようにも思います。時代がどんなに変わっても、自分の中に確かな芯(基準)があれば、ブレることは少なくなるでしょう。
↓ こちらも「カルティエ、時の結晶」展にて

前述の約1億4000万円のブレスレットについては、さまざまな意見があると思います。エターナルな価値を持つピースが、資産運用の対象となっている現実は否定できません。またジュエリーは、もともと希少さゆえに権力の象徴として成立した背景を持つことから、今なお社会的な階級を示す手段であることも確かです。優れた芸術性の価値は普遍的との見解は正論と思いますが、1億円を超える金額は、はるか彼方の縁遠い存在にも感じられます。
が、ここでちょっと視点を変えてみませんか。ジュエリーをもっと多くの人に楽しんでもらいたい、という立場から、私はもう少しひとりひとりの気持ちに引き寄せた見方をしたい、と思っています。メディアの報道をそのまま受け入れるのではなく、そのジュエリーが自分の目にどう映るかが、大切なのではないでしょうか。「価値」とは基本的に、相対する物と自分自身の関係をどう評価するかの表れで、自分主体で決めるものと思うからです。少々乱暴な表現かもしれませんが、個人的には「どんな状況にあっても、好きなものは好き」と捉えています。それが買えることを基準にするのではなく、それを見て気持ちが豊かになる、心地よい時間が過ごせる、といった観点から価値をはかることができたら面白いのでは?というのが私の考え方です。これについて、異論がたくさん出てくることを期待しています。
新時代にふさわしい、個性的なジュエリー観を持つ人が、もっともっと増えますように!

photographs:Cartier Collection by courtesy of Cartier
アイキャッチ画像は「The Art of Cartier 」図録より

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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