ジュエリーとの巡り合い (私の場合)

今年の春は、これまで経験したことのない季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。私はといえば、緊急事態宣言で予定していた撮影が中止になり、打合せもオンラインになりました。日々の生活は、食品の買出しと近所の散歩以外は、Stay Home。(これができるのは、インフラを支えてくださっているみなさんのおかげです。ありがとうございます)
これからどうなっていくのか、先が見通せない不安な状況ですが、一喜一憂するのではなく、マイペースを守っていきたいと思っています。そのために、「基本にかえる」ことを少しずつ実行しています。

Stay Homeによって、思わぬ時間ができました。これを有効に使わねばと、資料の山の整理にとりかかっています。過去のジュエリーの展覧会のカタログなど、見直すたびに新鮮なものばかりで、まさに宝の山!ただ困ったことに、一冊ずつ熟読してしまうため、整理は遅々として進みません(苦笑)
ジュエリーには多面的な魅力があって、長年携わっていても、しょっちゅう新しい発見があります。このブログでは、その時々に自分が惹かれていることを書いてきました。しかし基本中の基本、ジュエリーに興味を持ったきっかけについては、まだお話していませんよね。この体験が、今まで続く「ジュエリーの素材=石好き」に大きな影響を及ぼしているのです。

20代のころの私は、ジュエリーというものにまったく興味がありませんでした。ファッションが大好きでしたので、服にコーディネートするアクセサリー(コスチュームジュエリーを含めて)はチェックしていましたけれど。とくにお気に入りは、ヨーロッパのアンティークピースでした。当時(何十年も前のことですが、笑)は、欧米のジュエリーに関する情報が少なく、私が知っていたのはカルティエのトリニティ リングと、ティファニーのオープンハート ネックレスくらい。それら以外の独創的なデザインにふれる機会がなかったことも、ジュエリーと距離を置いていた原因のように思います。

そんなある日、打合せで会ったイラストレーターの神沢礼江さんのジュエリーに、目が吸い寄せられました。それは大ぶりのアンバーのリングで、崩壊寸前の旧ソ連で手に入れたもの、と伺いました。(外国人向けのショップで商品がまばらな中、琥珀とマトリョーシカだけがたくさん並べられていたそうです。光景が目に浮かぶようです)
それまで琥珀にはなんとなくシニア向けのイメージを持っていて、細部まで確認したことがありませんでした。しかしこれは、まったく違います。神沢さんのリセエンヌ(anan発信、リセの学生をイメージしたカジュアルミックス)風スタイルにも、よく似合っていました。「琥珀ってこんなカッコよかったんだ!」と手にのせて観察すると、透明感のある黄〜オレンジ色の部分の所々に気泡があって、それらを取り巻いている液体は、ねっとりとした感触までが伝わってくるように感じられます。そこに焦茶色の斑(のようなもの)が入り、不思議な暖かみが漂っていました。(なお上の画像はイメージです)
さらに神沢さんの「琥珀は化石なんですって」とのひとことが衝撃的!琥珀は何万年、ひょっとすると何億年も前の樹木から流れ出た樹脂が、長い年月を経て化石化したものだそうです。(傷ついた部分を修復するために、木が樹脂を分泌します)
なるほど、たしかに!琥珀に浮かぶ気泡は、太古の地球の呼吸の痕跡のようにも感じられます。「この石に、地球の歴史が詰まっているんだ!」と、それまで味わったことのない興奮が、体の奥から湧き上がってきました。さらに詳しく調べた結果、琥珀が古代エジプトでジュエリーとして珍重されていたことや、お守りとしても用いられていたこと、鉱物ではないけれど同等の硬度を持っていること、などが解ってきました。
琥珀を知ったことで、がぜんその他の石(鉱物)への興味がかきたてられました。幸運なことに、感激が冷めやらぬうちにパリに行く機会を得て、迷わず自然史博物館に向かいました。そこで一堂に会した多様な鉱物を確認する中で、ジュエリーに使われている宝石も、地底の奥深くで育まれ、何万年もかけて私たちの目の前に現れたことを知りました。ひとつひとつの石に誕生の物語があり、それを語りかけてくる声が聞こえるようでした。貴石も半貴石も、琥珀と同じように地球のロマンを秘めていたとは!石って面白い!ーー光る石はお金持ちマダムのもの、と決めつけていたのはもはや遠い昔のよう(笑)。こうして私は、すっかり石に魅せられてしまったのです。

そしてこれも石の縁でしょうか、いつしか私はジュエリーに関する仕事に携わるようになりました。琥珀に出会って以来、ずっと持ち続けている石への興味をさらに深めてくれたのは、VCAのレコールで受けた「原石の世界」の授業です。こちらに関連するオンラインプログラムの一部を、You Tubeで見ることができます。ご興味のある方はどうぞ。

VCAレコールに続き、テーマ名を入力して検索してください。下記以外にも、様々な角度からのテーマが揃っています。
⚫️ジュエリーの素材について
「エメラルド:鉱物学 宝石学 鉱物加工」
「驚くべきサファイアの色」
「モゴック渓谷のルビー」
「生体鉱物:真珠からコーラル、オドントライトまで」
「エチオピアのオパール」
⚫️ジュエリーとその素材をめぐる物語
「VCAとレターウッド:人々はなぜ木をノックする?」
「ジャン=バティスト・タヴェルニエ:17世紀のダイヤモンドを巡る冒険」

ジュエリーに対するアプローチは人それぞれ、自分流でいいと思います。私の場合は、偶然の出会いから芽生えた石への思いが、ジュエリーへの道を開いてくれました。現在はジュエリーに興味のない人でも、この先ふとしたきっかけで、見かたが大きく変わってくることがあると思います。そんな時にもジュエリーには、どの面からのアプローチも受け止めてくれる懐の深さがあります。だから面白い。そして楽しい!そう感じてもらえたら、こんな嬉しいことはありません。

※ 琥珀の画像は、「琥珀に関する15の事実」より
エメラルドの画像は、レコール オンライン プログラムより

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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