日本のクラフツマンが世界に誇る「手」の技

ジュエリー&ウォッチの原稿を書き始めてから、20年近くになります。最近ようやく、作品の背景にあるものに目を向けられるようになりました。(これは年齢のせい?笑) そしてその流れを受けて、日本のジュエリーの変遷に興味をもちはじめました。西洋では「宝飾芸術や時計製造の伝統は、文化を伝えるもの」といわれますが、日本のジュエリー事情は、バックグラウンドが大きく違っています。文明開化期に洋装とともに海外からもたらされたジュエリーが、日本でどのように受け入れられ、制作されてきたのでしょうか?

漠然とこんなことを考えていたところ、興味深い情報が飛び込んできました。銀座のミキモトホールで開催中の「The Eyes and Handsーークラフツマンの感性」展で、日本ならではのジュエリー制作の技術にふれることができると。
このエキシビションは、ミキモトのジュエリー制作に携わるクラフツマンの目と手から生み出される仕事に着目したもので、制作過程の3つの場面ージュエリーデザイン、制作(加工)、真珠の選別ーの工房を会場内に設置。実際に使われている道具類や器械の展示に加えて、映像効果によってクラフツマンの目線や手もとを体験できるようになっています。さらに第一線のクラフツマンによる、デモンストレーションも数回行われます。ミキモトのクラフツマンが表舞台に登場するのは、おそらく初めてのケースではないでしょうか。

ここで特に注目したいのが、制作過程で施される、ミキモト伝来のテクニックです。ミキモトでは、創業者御木本幸吉の意向で明治時代の創業期から欧米に研究員を派遣し、西洋風のデザインを研究したそうです。明治40年には図案室を設けて、西洋と日本の美を融合した新たなデザインの開発をスタート。さらにそれを、日本の伝統的な錺職(かざりしょく)の技と西欧の制作技術を融合した職人のテクニックを用いて、ジュエリーに落としこむ手法を確立しました。こうして宝飾文化の黎明期に西欧から導入されたテクニックが、日本で独自の進化を遂げることになったのです。ミキモトのジュエリーを見た時に、そこはかとなく感じる「和」の雰囲気には、こんな背景があったんですね。

なかでも唯一無二の技といわれるのが、「ケシ定め(きめ)」。ケシと呼ばれる極小の真珠(シードパール)をヤスリで擦って面をつけ、地金に隙間なくセットする技法をいいます。この日本固有のテクニックを用いて制作されたリボンのブローチが、会場に展示されています。その繊細さといったら!ぜひ実物をごらんください。
ミキモトでは、貴石のセッティングが「石定め(きめ)」とよばれているとのこと。そのことを知って、急に明治時代の職人さんたちが身近に感じられました。
会場にはこれ以外に、小さくカットした宝石を隙間なく留める技法「カリブル留め」が駆使された、オウムのブローチも。またアイキャッチ画像の、糸ノコで地金の不要部分を除いて、レースのような模様を軽やかに表現した「透かし彫り」のブレスレットも並んでいます。
もうひとつ忘れてならないのは、さまざまなジュエリーの縁に施されている「ミル打ち」です。これは明治期に西欧から導入された「ミルグレイン」技法が、日本で改良されたもの。ケシ真珠を留めた地金の縁や、貴石を枠留めした縁などに施されているので、注意して確認してみてはいかがでしょう。

これらのテクニックを通して、日本のクラフツマンたちの職人魂が伝わってきます。彼らは西欧からもたらされた制作技術を、英知を結集して改良し、さらに創意工夫を加えて、新しい技を生み出してきました。それはいわゆる和洋折衷を超えた、斬新なクリエイションだと思います。かつて日本の職人たちが、ジュエリーという全く新しい分野においてさえも、世界を相手に勝負を挑んできた。そこに発揮された「手」のパワーの証として、日本で育まれた技がもっと注目されていいのではないでしょうか。
こうした日本のジュエリーの系譜を継ぐクラフツマンの作業のようすを、8/20のデモンストレーションで間近に見ることができます。背景のスクリーンに手もとがアップで映し出され、遠くからも細かい作業のようすが把握できるよう、見せ方にも工夫がこらされています。「手」の技に興味のある方に、きっと満足していただけると思います。

「The Eyes and Handsークラフツマンの感性ー」
9/2(火)まで ミキモト銀座本店7階 ミキモトホールにて開催中 入場無料
11:00〜19:00(最終入場18:45) ※8/21休館、8/30は14:00開場
クラフツマンによるデモンストレーションイベントは8/20(火) ①14:00〜②16:00〜(各回30分程度)

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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