スリランカから来た犬が もたらしてくれるもの。

もう今から4年半くらい前、スリランカを旅していた時に、大雨の日、ある寺院の参道でびしょぬれの子犬と出会った。それが私の愛犬プニ。検疫準備のためスリランカに5ヶ月以上滞在した後、はるばる飛行機でドイツに飛んで来たのだ。

スリランカでは当地での犬たちの置かれている惨めな状況に奮起したドイツ人女性が、私財を投じて作ったドッグクリニックに置いてもらっていたのだが、そのクリニックの一番の目的は、増え続ける野良犬たちを捕獲し、避妊や去勢を施し、養生させた後にまたリリースすることだから、当然、プニはペットとしての訓練を受けて来たわけではなかった。フランクフルト空港で5ヶ月ぶりに見たプニはすでに体はほぼ成犬の大きさ。にわかにはあの可愛かった子犬と同じ犬とは思えないほどだった。体は大きいが、ここで経験することはプニにとって、ほとんど初めてのことばかり。つけたことのないリードはめちゃくちゃ引っ張るし、クリニック内の敷地しか知らないプニには、車も自転車も恐怖でしかない。

プニを預かってくれたドッグクリニック。スリランカを気にいったドイツ人女性が別荘用に買った広大な土地に開設。今もスリランカの可哀想な犬たちを救い続けている。頭が下がります。

スリランカから着いたばかりの頃のプニ。冒頭の子がいきなりこんなになっていて、もちろんプニは私を覚えていないし、お互いちょっと戸惑った。

一番困ったのは、他の犬とうまくコミュニケーションがとれないこと。とにかく怖がる、あるいは正反対に威嚇する。それで私はいいドッグトレーナーを探してコーチしてもらっているのだが、なるほどと思うことが多くとても勉強になる。そのドッグトレーナーはまず教えてくれたのは、プニに自信をつけさせること。適当な大きさの段ボール箱などを用意して、そのなかに新聞紙やビニール、アルミホイルなどを丸めて入れ、そこにおやつなど犬のトリーツを入れる。それをどうしても取りたい犬は、手や鼻を入れ取り出そうとするのだが、慣れない素材に触ることは犬にとってはとても勇気のいることで、また丸めた紙やアルミホイルが出すガサゴソした音も怖いらしい。その上、飼い主はそばで手をたたいたり、ものをたたいたりして、大きな音を出すことを奨励されるのだが、そうした環境の中で、トリーツを獲得する経験を重ねることで、徐々に犬に自信がつくと言う。

確かにプニの場合も、自信が多少はついたのか、以前より他の犬ともめ事を起こすことは減って来ている。私も少しは知恵をつけてきて、今ではプニが好きそうな犬と嫌いそうな犬は向こうから歩いて来るのを見るだけでなんとなくわかるようになった。結局、プニを含め他の犬と問題を起こす犬は、脅される方も脅す方も一緒で、要は自信がなく、精神状態が不安定な子が多い。また飼い主自身も不安定だったりちょっと変わっていたり、飼い犬との信頼関係があまり強くなかったりする。犬たちは、そういう犬を一目で見抜いてアタックしてくるのだ。

そう考えてみると、人間の世界も似たようなものだなと思う。学校でも職場でもママ友のようなクローズドのコミュニティでも。いじめを受ける人もする人もどちらも一皮むけば臆病で弱い存在であることが多い。人間もだから、まず自分に自信をつけることが大事なのだろうけど、人間の場合は一体どうやって。そうそう簡単なことではないが、やはりどんな小さなことでも、これはと思えるような自分の得意なものを見つけることだろうか。そして一人でもいいから自分を理解してくれる人との関係を築くことなのだろう。

犬を飼い始めて、散歩のためにいろいろな場所を歩き回るようになって、美しいランドスケープなど発見があるだけでなく、犬観察やプニのトレーニングで学ぶことがある。プニは私にさまざまなものをもたらしてくれている。

今ではこんな仲良しもできたプニ。今年の冬、よく散歩に行く川辺のほとりで。

 

WRITER : Ayako Kamozawa

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