ブローチに愛をこめて

 

平成から令和へ。ロイヤルブーム真っ只中の今、ブローチが注目されています。たしかに‘50〜60年代の「よそゆき」には、必ずといっていいほど、胸もとにブローチがありました。しかもネックレス、イヤリングとの3点セットでの着用も、当時の写真でよく見かけますね!しかし私はリバイバルファッション心酔派(笑)ではありませんので、今の時代に即した個性的なブローチコーディネートがカッコいい、成熟世代の女性おふたりをご紹介したいと思います。

一人めは、ブローチといえばこの人、エリザベス女王です。明るい色の服と帽子、ブローチの三位一体的(笑)なコーディネートセンスはさすがオンリーワン!

現在のイギリスでは、王室は政治的な発言はしないことになっています。しかし女王陛下は、毎日のコーディネートに欠かせないブローチを通して、ご自身の気持ちを語ってらっしゃるのでは?との憶測が、庶民派の夕刊紙を中心に飛びかっているそうです。最近最も盛り上がったのが、トランプ大統領との面会。彼がイギリスに到着した当日、大主教に会った際に女王は、オバマ大統領夫妻から贈られたヴィンテージブローチを着用されていました。しかしトランプ大統領を迎えた時には、(もちろん全てのコーディネートをチェンジされるのがルールなのですが)、クイーンマザーから受け継いだヤシの葉モチーフのブローチをセレクト。なんとそれは、クイーンマザーがエリザベス女王の父であるジョージ6世の葬儀に着けられたものだそうです。ロンドンっ子たちは、「女王はオバマびいきで、トランプ嫌い。きっと葬儀に参列するような、重い気持ちだったのに違いない」とウワサしたとか?さらに翌日、ベルギーの王と王妃に会われた時には、カナダから贈られたサファイアのブローチを着用。折しもカナダがトランプ大統領から槍玉にあげられていたため、これは女王からカナダへのエールなのでは?と感じた人も多かったようです。実例の画像がないのが残念ですが、以下にお洒落な女王陛下のスナップをご覧ください。

女王陛下のブローチコーディネートには、存在感のあるデザインもさりげなく自然体で着けこなす、圧倒的なオーラを感じます。

そしてもうひとりは、アメリカのオルブライト元長官。女性で初めて国務長官になった聡明な女性ですが、ブローチの使い方も見事に知的です。彼女の著書”Read my Pins”(pins=ブローチ)によると、彼女は外交交渉の場で、その日に会う主要人物によって、メッセージを込めたブローチを選んで着けていたそう。もともとブローチ好きだった彼女が、ブローチでメッセージを発信することになったきっかけは、アメリカとイラクとの対立関係でした。当時国連大使を務めていた彼女がサダム フセインを批判したところ、イラクの新聞に彼女を「ヘビのよう」と例えた詩が掲載されたそうです。それを知った彼女は怯むことなく、イラク高官との会談の席にわざと小さなヘビのブローチを着けて出席し、話題を呼びました。その後もブローチを味方に、コワモテの男性を相手に一歩も引かず渡りあった、痛快なエピソードがたくさん語られています。強気に出る時は、ハチのブローチをつけたというオルブライト女史。特にアラファト議長とのツーショットが、とってもチャーミングです!

エリザベス女王とオルブライト女史。このおふたりが素敵だな〜と思うのは、ファッションを自分の個性の一部として、思いきり楽しんでいる点です。込められたメッセージにはユーモアがあり、ブローチへの愛が感じられるのが何ものにも代え難いと思います。ところでトップページのブローチは、Last Dance の昨年秋の展示会で発表されたもの。このブローチには、「他の人と同じ価値観で生きる必要はない、自分の個性を大切に」とのメッセージが似合いそうですね。(カッコつけすぎ?)

成瀬浩子

 

 

WRITER : Hiroko Naruse

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