ヘニング・コッペルが遺したタイムレスなデザイン

ジョージ ジェンセンのデザイナーのひとりとして、デンマークのモダンデザインを代表する多くの名作を残し、今年が生誕100年にあたるヘニング・コッペル。北欧取材でコペンハーゲンのジョージ ジェンセン本店を訪ねて、ヘリテージの数々にふれるまでは、彼の名前は知っていたものの、作品を強く意識したことはありませんでした。
私が訪れた当時の本店では、ヘリテージ作品がひとつの部屋にまとめてディスプレイされていて、手の込んだ装飾を施した銀器の数々に圧倒されました。その中でひときわ目をひいたのが、コッペルが1950年代にデザインしたピッチャーです。その流れるようなフォルムに、クギ付けになりました。この時に、彼が独特の洗練されたフォルムを持ったベースやボウル、カトラリー、照明器具なども手がけたことを知りました。これがコッペルとの最初の出会いでした。

2度目の出会いは、ジョージ ジェンセンの時計について調べていた時。現在「コッペル」と呼ばれている、インデックスに数字ではなく点をあしらった、シンプルかつ機能的なウォッチの文字盤は、1978年にコッペルがデザインしたクロックに由来することを知りました。ジョージ ジェンセンでは今も、これらのクロック&ウォッチが、商品として扱われています。さらにコッペルは、ジュエリーも手がけていました。こちらも種類は限られるものの、現役で商品ラインナップに加わっています。

 

 

そして3度目の出会いはパリで。たしか装飾美術館だったと思うのですが、コッペル作のヘリテージのジュエリーに出会いました。たくさんの展示品の中で真っ先に目に飛び込んできたのは、どこか見覚えのある、ユニークなモチーフをつないだネックレス。彼の創るジュエリーは、ひとつのモチーフを、さまざまなアイテムに応用しているのが特徴です。パリで出会ったネックレスは、輪っかをつぶしたような、丸と四角が融合したような、不思議な立体感のあるモチーフからできていました。モダンなのにどこか暖かみを感じるのは、手作業のなせるわざでしょうか。もともと彫刻家を志していたというコッペルは、立体的なフォルムを得意としています。そのネックレスは1960年代の作品で、完璧なフォルムにコッペルのシルバーマイスターとしての力量がいかんなく発揮されているのですが、さらに「心地よく使える」という点も見逃せません。。ひとつひとつのモチーフを小さな輪でつないで、デコルテラインに自然にフィットするよう、工夫されています。また留め具もユニークで、かつ機能的。このように、身につける女性の気持ちによりそうディテールに惹かれました。

 

 

 

コッペルの作品は、ジュエリーであれテーブルウェアであれ、いずれもシンプルでコンセプチュアル。いまに通じるセンスが感じられます。彼の作品はどれも発表時に革新的と評判をよんだそうですが、半世紀を経た現代の私たちも、そのモダニティに共感します。ここにコッペルの真骨頂があると思います。時の流れを超える普遍的な魅力は、彼のミニマルで機能的なデザインが、美の本質を捉えているからではないでしょうか。そうしたタイムレスなデザインを、日常生活の中で実際に使ってみたくなります。ちなみに私がひと目ぼれしたピッチャーですが、(もしコッペルが生きていたら)生誕90周年にあたる2008年から、素材をシルバーからステンレススティールに置き換えたモデルが制作されているそうです。あとはコッペルデザインが似合う空間を何とかしなくては!

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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