夢を現実にするマジシャン、レイラ・マンシャリ

私が初めてパリに行ったのは、70年代末の冬でした。街中のブティックがクリスマスのディスプレイを競い合っていたのに、フォーブル サントノーレのエルメスの大きなウィンドウだけは南の楽園のよう!きれいなだけじゃなくて、なんてユニーク!それ以来、パリに行くとエルメス本店のウィンドウをのぞくのが、大きな楽しみになりました。その後SPUR誌の編集に関わることになった私は、銀座店オープンの取材を通して、70年代末からウィンドウ ディスプレイの責任者を務めてきた、レイラ・マンシャリという卓越した才能の持ち主を知ったのです。

↓ 1998年夏

彼女の名前を知る少し前に、たまたま私は、レイラらしき人物をパリ本店のウィンドウの中で見かけていました。真っ白なウィンドウの中を、白いバッグを抱えて動き回っている彼女の姿を見て、なんだか秘密の扉の隙間から覗き見している気分になりました。と同時に、「このひとのことを、もっと知りたい!」という気持ちがふつふつと湧いてきたのです。

彼女のディスプレイを見ると、この人が果てしない夢をみている人なのがよくわかります。そしてその夢を現実にして、私たちにも見せてくれるマジシャンだということも。彼女のグローバルで大胆な発想の魔法がかけられることによって、パリシックの「良い趣味」の象徴であるエルメスの製品が、それだけにとどまらず、もっと刺激的な物語を語りかけてくるように感じます。

↓ 1999年冬

そのレイラ・マンシャリの展覧会が今秋グラン・パレで開催されると、届いたばかりの「エルメスの世界」秋冬号にありました。展覧会のテーマは、レイラ・マンシャリの眼を通して見た、優れた職人の技。そして世界各地に埋もれた、思いがけない工芸技術に捧げる賛歌だといいます。レイラは九州に長期滞在して、竹細工と陶芸を学んだこともあるそう。夢を現実にするには、やはり比類なき技と、その心を知ることが重要なのですね、、、
「そしてレイラは夢を描く」というタイトルの記事には。『展覧会は、そぞろ歩きながら足を止め寸劇を見るように。あるいは「ひとつの物語の中を散策し、そのいくつかの章を想起し、解釈しなおす」ように仕組まれる』と。なんだかキツネにつままれたような気分ですが(笑)、そこはマジシャン=レイラの展覧会ですから、タネ明かしは見てのお楽しみ、ということでしょう。

⚫️ 「レイラ・マンシャリ」展    11月9日〜12月3日   @グラン・パレ 南展示場

成瀬浩子

WRITER : Hiroko Naruse

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