2016.07.06 art exhibition journey
アートバーゼル 1
スイスのバーゼル、と聞いて、どれくらいの人が具体的なイメージを持っているだろうか。同じスイスの中でも、チューリッヒやジュネーブに比べると、知名度が低いのは否めないのだけれども、実はどっこい、アート界では世界で最も重要な都市のひとつなのだ。
その理由は世界最大のアートの見本市「アートバーゼル」。毎年6月に行われるこのイベントには、厳しい審査を経て出展の許されたギャラリーが世界各国からやって来る。つい先月終わった47回目の今年は33カ国から286のギャラリーが参加。これらギャラリーのブースが立ち並ぶ2フロアの本会場のほか、ブースに収まりきれない大規模作品やビデオ作品が並ぶ“Unlimited”専用の会場があり、
プレオープンを含め6日間の会期で9万5000名の来場者があった。
来場者の中にはこれまた厳しい審査を経て招待されたVIPもいて、プライベートジェットで飛んでくる人も珍しくない。VIPのみ入場できるプレオープンに潜入してみると、米英のタブロイド紙を賑わすようなセレブリティの姿も。今年は確認できなかったものの、アート愛好家の顔を持つブラッド・ピットが数年間連続で訪れていたことは知られている。なぜこうしたVIPがわざわざバーゼルに足を運ぶのかは、もちろん本気でアートを買うためだ。アートバーゼルにはどのギャラリーもここ一番の目玉作品や一押しの作家の作品を持って来ており、自分で世界各地のギャラリーを巡って探すより、断然効率やいい。中にはマーケットにあまり出回らない希少な作品もあり、ここで買い逃したら個人の所蔵になるなどして二度とお目にかかれない可能性も大いにあるので、買う方も必死。VIPの中でもさらに一握りの人しか参加できないファーストチョイスと言われる4時間ほどで、話題の作品はほぼ売り切れてしまうというのだからすごい。
VIPの方々はご夫妻で来ている方が目立ち、ブロシャーなどにペンで何やら書き込みつつ真剣に品定め。奥様方はさすが普段バーゼルではあまり見る事のない華やかな高級ブランドで身を包む人が多いが、そこは慣れたもの。足下を見ると、たくさん歩く事を見越してかスニーカー率が高い。中には専属のキュレーターと思しき専門家を従えて会場を練り歩く人も。もちろん、個人収集家だけでなく、美術館や財団のコレクション担当者も訪れる。
本会場内を一通り見て回るだけでも丸一日がかりなので、VIP専用フロアも含め会場内には飲食できる施設が完備されている。オーガニックからタイ、スイス料理はたまた寿司まである中で、ブースを縫って売り歩くワゴンサービスもあり、なにかと見ればそれはグラス売りのシャンパン。契約成立にはシャンパンがつきもの、といばかりに杯が空けられる。Brexit直前の出来事とは言え、世界の不透明な景気はどこの話?と思えるほどの光景がそこにはあった。
鴨澤章子
WRITER : Ayako Kamozawa