2016.01.28 art journey life
Venus
一昨年の秋、友人から面白い奴がいて格好いいものを作っているから見に来ないかと誘いがあった。カッコ良いとか面白いという言葉に弱い私はそそくさと出かけた。ちょうど、甲府の工房ツアーと重なっていた。そう、今回も甲府です。
訪れたのは、甲府市内の横根町のぶどう畑の中にある工房。
大型や小型の頑丈そうな機械が沢山あり、小綺麗な“アトリエ”とは全然空気が違う男っぽい工房。そんな場所で、古屋圭充康(ふるやかずやす)さんは、“ヴィーナス”を作った。
河口湖の近くにある「MOTOR CYCLES DEN」。
カスタムバイクに興味のある人なら知らない人はいない、すでに故人の佐藤由紀夫氏が作った店だ。佐藤氏は、伝説のカスタムバイク、タイタン(TITAN)を作ったビルダーとしていまだにチョッパー・ビルダー達から敬われている。その美しいバイクは、1989年、アメリカ、カリフォルニア州のオークランドで行われたカスタムバイクショウで優勝を獲得している。あのヘルス・エンジェルスも唸らせた名品中の名品を作った人だ。(詳しくはウェブサイトを見てください)
古屋さん(カズさんと呼んでいる)はその佐藤氏に大きな影響を受けた一人だ。理想のカスタムバイク作りのために生き、その姿勢を貫いた佐藤氏に共鳴した。カズさんも理想のカッコ良いバイクを作りたいと考えた。佐藤さんへのオマージュと言っても良い。そして、親の後を継いだ工場で、カズさんの10年近くの試行錯誤と製作の日々が始まった。製図を独学で学び、本物のバイクを解体して研究を重ねた。その間に人生の節目と言えるようなバイク作りとは全く関係ない出来事が沢山あった。しかし、カズさんのアーティスト魂は美しいチョッパー作りから離れることはなかった。‘96年くらいから始めて’07年になりかけた頃、「ヴィーナス」が完成した。
そういえば、タイタンもヴィーナスもギリシャ神話に出てくる名前だ。
頭からお尻まで一部を除いてほとんどがステンレスで作られている
「ヴィーナス」と名付けられたチョッパーは、本当に美しい。
必要な物のみで作られているのに(このチョッパーは動きます!)、カズさんのこだわりが隅々まで行き渡って、作った人のセンスと機能美がもたらす素晴らしさを感じさせる。鏡面仕上げされたステンレスを見るとカズさんが一心不乱に磨きをかけている姿が想像される。
そして、知り合いから勧められて、‘07年に、アメリカ、サウスダコタ州のスタージスという町で開かれたカスタムバイクショウにエントリーする。
その中の、Amd champion shipで27位、さらに、Rats hole custom Bike Showで2位を獲得している。
帰国してからは、COOL BREAKER PREMIUM実行委員会の河北氏に招待され、RIDE IN で1位になっている(河北氏もまた、佐藤氏を尊敬する第一人者。氏のショップは、こちら)。
今もカズさんの工房にヴィーナスは大事に保管されている。
カスタムバイク好きなら垂涎物だし、大金を出して買いたいという人もいるらしいが、「売り物」ではないからと、言う。
カズさんが大事に大事にしている永遠の恋人のようだ。
(ちなみにカズさんは独身です。物を作る人の頑固さと優しさを持っています。)
そして、彼にとって未だに「ヴィーナス」は完成していないのだと言う。その職人魂に脱帽だ。
工房で鉄と向かい合い、日々物作りに向かっている人がここにもいる。
このブログを書いていて思い出した。
去年、全く久しぶりに「イージーライダー」を観た。1969年、カズさんが生まれた年に製作されている。心に残る作品のベスト5に入る作品であることに変わりなかった。
カズさんに影響を与えた佐藤氏も、きっとこの映画に感激したのではないかと今になって思う。
WRITER : Chigako Takeda