“Cafe Society”がおしえてくれること

“Cafe Society”と聞いて、みなさんは何を想像しますか?同名の映画やナイトクラブではなく、「シャネルのハイジュエリー コレクション」と答えた人はかなりのジュエリー通ですね。しかし、「カフェ ソサエティ」自体についてご存じの方は、かなり少ないのではないでしょうか。

一般的に「カフェ ソサエティ」とは、上流階級の人々が集まるナイトクラブなどの常連をさします。いっぽうシャネルのハイジュエリーのインスピレーションの源になったのは、20世紀初頭にパリで興った、ジャンルを超えたクリエイティブな人々と、それをサポートする人々から成る、階級を超えて結びついた社交界のコミュニティ。何よりも美意識と才能を重んじた彼らは、音楽、絵画、文学、さらには写真やモードまで、それぞれが時代を牽引する存在でした。ヨーロッパの価値観が大きく揺らいだ「狂騒の20年代」を背景に、彼らはお互いに刺激しあいながら、総合的な芸術運動を生み出していったのです。その活動は、大衆文化が台頭する20世紀半ばまで続いたと言われています。

今回のシャネルの”Cafe Society”コレクションは、1920~30年代の時代的な背景とクリエイションに着想を得て、さらに現代の息吹を加えた表現が魅力です。特に注目したいのが、直線と曲線の軽やかな融合。そして、あたたかみのある色と素材遣いです。発表会の会場にディスブレイされていた、サラ・ムーンの写真のように、女性の肌にのせたときに最も美しく輝くジュエリーではないでしょうか。cfインスタグラム(naruse_h Cafe Society1-3)

「カフェ ソサエティ」のメンバーは「無益なものほど役立つものはなく、表面的なものほど奥深いものはない」というスノッブな信条で繋がっていたそうです。ピカソ、ストラヴィンスキー、コクトー、ディアギレフなどの高名なクリエイターたち、さらにデイジー・フェロウズ、ミシア・セール、ペギー・グッゲンハイムといった、芸術の擁護者たちの名前も。その中心にいたのが、マドモアゼル シャネルとエティエンヌ・ド・ボーモン伯爵でした。アーティストの庇護者として知られたボーモン伯爵は、写真家としても活躍。数多くのファッション写真やポートレートを手がけています。代表作の中に、有名なマドモアゼル シャネルの写真も残っています。

そのボーモン伯爵が1931年に、カルティエ パリにオーダーしたプラチナのシガレットケースが、“カルティエ コレクション”(アーカイヴ)に収蔵されています。ケースの内側には、「カフェ ソサエティ」のメンバーの愛称がエングレーヴされています。ココ(シャネル)、エティエンヌ(・ド・ボーモン)、デイジー・フェロウズ、ペギー(・グッゲンハイム)、、、残されたサインの半数は、今となっては誰のものかを確かめる術がありません。ただそこには、時代の最先端にあって、次の時代への起爆剤ともなった彼らの熱気と高揚感が、確かに刻みこまれているのです。cf インスタグラム(naruse_h Cafe Society4)

階級意識や伝統の束縛が強かった時代に、自由な新しい美を求めて、創造に挑戦した先駆者たち。彼らが集った「カフェ ソサエティ」が現代に伝えることばに、耳をかたむけてみませんか。

成瀬浩子

 

 

WRITER : Hiroko Naruse

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